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【イラスト】ハーモニーの日々新聞【イラスト】ハーモニーの日々新聞

変わらない肉まんの味、店じまいする馴染みの不動産屋さん。上町よいとこ1 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.03

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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。

「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただくこの連載

今回から新聞部が本格始動!ハーモニーがある東急世田谷線上町駅付近をメンバーが散策。近所にある美味しいものを紹介したり、馴染みの人に偶然出会ってインタビューしてくれたりの様子をお届けします。

そこから垣間見えたのは、街にある変わらないもの、変わっていくもの。そして確かにある日々の暮らしでした。(編集部 垣花)

新聞部始動!!

2021年、夏の暑い午後のことです。

私(新澤)はミーティングで話しはじめました。新型コロナウイルス感染症の影響により緊急事態宣言が発令中でもあり、人が集まるのを避けて、ミーティングでは、メンバーの半数はハーモニーにいて、残りはオンライン参加、つまりモニターに映し出されています。

新澤

「みなさん!新聞部をやりたいのですよ。し・ん・ぶ・ん・ぶ。ウェブ上の『こここ』のスペースで、ハーモニーの新聞を連載するんです。」

みんな

「(無言)」

何人かは本当に寝ている。

新澤

「えーと。原稿料が工賃になります。」

みんな

「なになに?」

新澤

「今回は、ハーモニー近辺のおすすめのポイントをメンバーが訪問することにしたいのです。」

みんな

「はあ?」

新澤

「ハーモニーの近くで取り上げたいところを教えてください。」

kagesan

「僕は上町に長く住んでいるから、昔の事に詳しいです。」

ヒロちゃん

「メダカが沢山いるお店と花屋さん。」

金ちゃん

「神社の境内でギター弾いたら叱られた。それから、宮の坂の電車。」

ミチコ

「私が行くと、必ず水とティッシュペーパーを持ってくる料理屋があります。」

「美味しい焼き鳥屋がある。駅二つ先だけど。」

こまねずみ

「今はもうないampmを思い出しました。それから、カムイ伝を全巻置いてあった本屋が閉店した。」

K2

「本屋の名前は柏文堂じゃなかったっけ。」

新澤

「たくさん出ましたね。でも、どうしたらいいんでしょうね。…..みんなの意見を聞いておいて、なんですが、手始めに「食レポ」どうですか?

緊急事態宣言が発令されているのでテイクアウトで美味しいものを買ってきて、ハーモニーの厨房のカウンターで黙食して、ひとこと感想を述べるというのはどうかしら。」

みんな

「まあ、いいでしょう。」

大ざっぱに言うとこういう流れで、新聞部が始動しました。ずいぶん大ざっぱですが。今回は、上町のご案内と食レポ、それから偶然町で会った長老インタビューです。お楽しみください。

【イラスト】ハーモニー新聞部のメンバー9人が並んでいる
左から、金ちゃん、岡ちゃん、こまねずみ、姫、ヒロちゃん、トム、kagesan、ミチコ、K2です。

ハーモニーのあるところ

あらためて、紹介します。ハーモニーは東急世田谷線の上町駅のそばにあります。世田谷線は東京には珍しい路面電車。「たまでん」という昔の名前で呼ぶ人もいます。

と言っても「上町」という町があるわけではないのです。世田谷区のホームページによると、世田谷・桜・弦巻の3つの町が含まれたエリアの事を上町地区というのだそうです。

このコラムでは、ハーモニーのご近所のことを、大ざっぱに「上町」と呼ぶことにします。

「上町」に隣接する町には、有名な豪徳寺(注1)があり、世田谷八幡宮といった寺社も間近です。旧代官屋敷を中心に年2回の「ボロ市」(注2)が立つなど歴史豊かな所ですが、駅前には大手のスーパーや個性豊かな店舗が軒を並べています。

注1:豪徳寺。

 東京都世田谷区豪徳寺二丁目にある曹洞宗の寺院。山号は大谿山(だいけいざん)。一説には招き猫発祥の地とされています。彦根藩主井伊家墓所としても有名です。

注2:ボロ市。

 東京都世田谷区世田谷で行われる蚤の市を中心とする祭礼です。1578年、北条氏政の「楽市掟書」により世田谷城下で始まった楽市を起源とし、現在は地元町会・商店会を中心に結成された保存会が主催しています。毎年1月15・16日と12月15・16日におこなわれますが、令和3年度の開催は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため中止となっています。

【イラスト】ハーモニーのご近所地図
ハーモニーのご近所。「ao_」は次回の新聞で登場します。

食レポ 

新聞部の目玉企画として、ご近所で売っているおいしいものをレポートすることにします。今回は肉まん(台湾肉包)です。

お店の名前は鹿港(Lu-Gang)。ルーガンと読みます。最近はテレビなどでも紹介される機会が増えてきたこのお店、ハーモニーを出て世田谷線を渡り、世田谷通りを三軒茶屋方面に徒歩3分ほどのところにあり、鮮やかな赤い看板が目印です。

ホームページによると創業は2003年で店主さんは台湾に日本語教師として赴任後、有名店で修業されたという話です。行列の絶えない人気店です。月曜日の清掃作業の帰り道にトムさんが買ってきてくれました。店頭で買うと肉まんが180円(税込)。

【写真】ルーガンの店舗前にお客さんが並んでいる
鹿港(Lu-Gang)
新澤

「みなさんどうでしたか?」

「皮が柔らかくて、ほんのりと甘い!」(ヒロちゃん、みちこ)

「安定の旨さだね、ジューシー」(姫、K2)

「おいしいです。間違えて紙まで食べてしまいそうです」(トム)

「これ、ご飯のおかずになりますよ」(岡ちゃん)

みんな、大満足のようです。最後に、こまねずみさんが遠い目をして話します。

こまねずみさん

「昔、弦巻に住んでいた頃、生活保護費を貰いに区役所に行っていたんですが、お金を受け取った帰りに、鹿港(Lu-Gang)で肉まんを買うのが、月に一回のささやかな贅沢だったというか….ちょっと、うれしいことだったのです。ただ、常に独りだったのです。その孤独感と美味しいものを食べたうれしさが、ないまぜになったあの頃の気分を、今思い出していました。」

長老インタビュー

鹿港(Lu-Gang)の前で信号待ちをしていたところ、お馴染の方と遭遇しました。杉木勝利さんです。ハーモニーの施設の物件も含めて、メンバー達の住んでいるアパートを多く仲介して下さった駅前の不動産屋さん。先日もこまねずみさんのアパートの水道が壊れて修理を手配して下さいました。

残念なことに杉木さんのお店は、8月末で閉まってしまったのですが、上町のことならば、昔から知っている杉木さんのお話を聞くに限ると、お声をかけました。そんなわけで、金ちゃんと私(新澤)でインタビュー開始です。

【写真】並んで立つすぎきさんときんちゃん
今はがらんどうになった杉木商事の前で杉木さん(左)と金ちゃん(右)。金ちゃんからのコメント「金ちゃんこと金原です!ハーモニーにたどり着いてはや十年。あっという間の十年でした!キラキラとした楽しい思い出、ほろ苦い少し辛くて悲しい思い出など沢山できました!今少し遅れた青春をしている金ちゃんをよろしくお願いします!」
金ちゃん

「杉木さんは、どのくらい前から上町で仕事をされていたのですか。」

杉木

「上町の駅前に店を構えて45年位になるかなあ。その前にも三軒茶屋の不動産屋につとめていたから、もう50年以上だよ。仕事のやり方もすっかり変わって、倅も後は継がないと言うんで、この機に辞めることにしたのよ。83だよ。もういいでしょ。」

新澤

「杉木さんが仕事を始めた頃の上町周辺は、どんな様子でしたか。」

杉木

「昭和50年代のこの辺はね。大地主がいてね。今のオオゼキのあたりもその人の土地だった。大地主っていうのはさ、相続で自分の土地を分割したり、人に売却したりするを好まないんだよ。だから、娘が結婚するにしても、同じくらいの土地持ちと結婚させたがったりしたんだ、それでも、事情があって手放さなくてはならない時には、うちの会社の出番だったわけ。ハーモニーのビルの建っている場所もその人のものだったよ。」

金ちゃん

「僕も、杉木さんのところの紹介でアパートに入りました。お世話になりました。今まで、仕事してきて印象に残ったお客さんはいましたか。」

【写真】インタビューに答えるすぎきさん
杉木さん
杉木

「喜ばれるのが一番だよ。借りる人も貸す人も双方が喜んで、お金になるのがいいね。困った人はあんまりいないよ。部屋に行ったら、床が見えないほどの下着の上に住んでいたり、ベッドの上に色々持ち込んで生活している人もいたよ。人それぞれだよ。

それをね。だからって出ていってくださいって、言えるかってことだよな。話し合うことにしてるよ、話し合うことが大事だね。」

金ちゃん

「亡くなったうちの父は不動産ブローカーでした。ゴルフ場へ投資したけれど、バブルで全財産を失ってしまったんです。」

杉木

「そうか。私も会員権では痛い目にあったよ。」

新澤

「当時は、バブルがはじけるって、誰も予想してなかったのですか。」

杉木

「いやあ、予想してたさ。永遠に株が上がり続けるなんて誰も思わなかったよ。でもね。終わりが来るのは今日じゃない。まだ、もうちょっと大丈夫って、もう少しの間は稼げるぞと思っちゃってたんだなあ。」

金ちゃん

「僕も悩んでしまうこともあるのですが、ひとづきあいのコツとかありますか。」

杉木

「つきあっているとだんだん、そのひとがわかってくるのよ。こっちにはいい顔していても、陰でいろいろやってる人だっているわけだ。その人とどの程度付き合っても大丈夫かということを自分の経験を元に考えるといいよ。悪い人とつきあわない。これに尽きるよ。」

金ちゃん

「いろいろわかってきました。 最後の質問ですが、8月でお店は閉まってしまったわけですが、これからの夢はありますか。」

杉木

「ないね。夢を風船でたとえると、だんだん風船がパンクしてる感じなんだよ。60歳で10個あった風船がパンパンって割れて、70歳になって3個残ったと。今、83になって風船が0になった。まあ、しょうがないかってわけだ(笑)

新澤さん、あんたもそうでしょ。」

新澤

「あ、はい。私の風船も大変だ。インタビュー終わりそうですね。このインタビューの目的は上町の紹介なのに、人生の話で終わりそうです….杉木さんの上町のおすすめポイントはなんでしょうか。」

杉木

「上町の名物を知りたい? それを早く言いなさい。ボロ市だろ。豪徳寺。松陰神社も近いね。世田谷八幡神社も有名だ。なんだ、当たりまえすぎるな。あとは、夫婦もんがやってるおいしいコーヒーの店があるから今度、連れていくよ。今度は少し話を絞ったほうがいいぞ。」

新澤、金ちゃん

「はい、よろしくおねがいします。」

編集後記

ハーモニーの上町紹介、いかがでしたでしょうか。

杉木商事が8月末で店じまいをされたのは、私たちには大きな痛手でした。

年齢を重ねていっても、慣れた所に住み続けることを願う人は少なくありません。ハーモニーは、ご近所の不動産屋さんの協力を得て、希望するメンバーたちにハーモニーの周りのアパートに住んでもらい、いろいろな生活上の応援をしていました。そのやり方に欠かすことの出来ない不動産屋さんが杉木さんだったのです。

それでも街は生き物です。起業しては消えていく街のお店や人々と、その時々に力をお借りしながらやっていくのも浮世の定めかもしれません。次回は、ファンも多い路面電車、東急世田谷線にまつわる話題やメンバーおすすめのお店を紹介します。

(ハーモニー新聞部+新澤克憲)


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