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【イラスト】ハーモニーの日々新聞と題字が書かれている【イラスト】ハーモニーの日々新聞と題字が書かれている

コロナ禍で変わったこと、変わらないこと、はじめてみたこと(前編) いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.13

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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。

(編集部 垣花)

 

地域の交流イベントの準備で始まった2020年。メンバーとアーティストが屋台を曳いてご近所の保育園に出かけ、こどもたちと敷きつめた大きな布に絵を描くというワクワクするようなことを企画しました(※注1)。

(※注1:お金をとらない喫茶展2 リンクはこちら

新型コロナウイルスのニュースが報じられるようになったのは、その慌ただしい準備の最中でした。港に客船が接岸した様子を見て「閉鎖病棟みたいだ」と冗談をいう余裕も少しはあった頃です。

イベントはハーモニーの友人たちの力も借りて大盛況。メンバーはコーヒーや甘酒をふるまい、道行く人を招き入れました。「町の中にこんなところがあるのですね。知らなかった」という若者や「毎日、喫茶店をやればお客で来るよ」と言ってくれる近所の人たちとの出会いがありました。

しかし翌週には都内の福祉施設において新型コロナの発生が報じられ、メンバーからは「面接禁止で老健(介護老人保健施設)に入居中の母に会えなくなった」と連絡が入りました。

そして、2月末の『幻聴妄想かるた』を使った集まりを最後にハーモニーの交流的なイベントは休止状態に入ったのです。息つく暇はありませんでした。気がつくと部屋の中に閉じ込められているのは、客船の乗客だけではない。私たちも同様でした。

新型コロナウイルスの蔓延による行動の制限は、街の小さな施設であるハーモニーに集う人々の生活を大きく変えました。2021年の夏、この「ハーモニーの日々新聞」の連載2回目に私はコロナの行動制限の結果、脅かされていたのは「いつもの生活」であり、希望を込めてコロナ下において、新しい「いつも」が生まれているのではないかと文章を締めくくったのです。

それから1年半が経過した2023年の初頭、ハーモニーのメンバーたちはどんな毎日を送っているのでしょうか。変わったこと、変わらなかったこと、できなくなったこと、始めてみたこと、改めて聞いてみました。

みなさん、コロナっていやですねえ

新澤

「コロナの前と後の話をするのも、先が見えないだけにつらい気もするんだけど。どうでしょうね」

トム

「うーん。いろいろあるけど、未だにマスクがいやだなあ。ストレスですよ」

新澤

「息苦しいですよね」

田中

「僕はマスクは前から愛用してたんですよ。躁の時期には、街を歩いても自然にニヤニヤしてしまって『不審人物』だと思われちゃうので、それをカモフラージュするためにマスクする習慣があったんです。なので、実は違和感がなかったり(笑)」

マッサン

「僕もマスクの恩恵を受けています。僕みたいな変な人は、マスクがない時はひと目見て人に小馬鹿にされるのですが、マスクのおかげで口元の表情を読み取られなくて済むので助かります」

【イラスト】マスクをしているときと、していないときの田中さんとマッサンの顔
新澤

「なるほどね。マスクはマッサンが人混みに紛れて、隠れ住むための変身ツールなんですね」

マッサン

「その一方で、私の説なんですがマスク生活が長いと脳の中の酸素が不足して、人間の思考力が徐々に奪われているのではないかと思うのですよ。これは人類の危機です。大丈夫なのかなあ」

新澤

「それは確かに人類の危機ですね。大変だ。家ではマスクを外して酸素の補充をしなくちゃ」

いろいろ気を使います

トム

「外にでると、いろいろ気を使いますよ。せき一つするにも。祖師谷のドトールコーヒーで煙草を吸ってせきこんでいたら、『おーい』って嫌な感じで声を出していた人がいました。僕のことが気に障ったみたいです。世の中コロナで窮屈になりましたね」

とこちゃん

「私も意思疎通の面で困ってますよ。うちは二世帯住宅なので、二階に兄家族が住んでるんだけど、気軽に物をあげたり、ご飯食べない?って言えなくなったわね。人と人の間に膜が張っちゃったみたい」

【イラスト】膜に覆われて他の人と接触しづらそうなとこちゃん
新澤

「会いたくても会えない人がいますよね」

とこちゃん

「入院中の友達がいても面会できないしね。先方から毎日電話してくれるけれど、やっぱり面会に行って顔を見て『なにか欲しいものある?』って聞きたいものです」

袋小路犬太郎

「うん。うちは特養(特別養護老人ホーム)に入居中の母とも会えなくなり、中で感染者が出ると職員が忙しくて、一時可能だったLINEでの面会も難しくなりました。母も施設内で感染したりして心配しました」

新澤

「袋小路さんのお母様は回復されて本当によかったです。実は僕もそうだけど、コロナで面会制限が行われた後に病院や施設で家族が亡くなった人はハーモニーにもいらっしゃる。それぞれに語りつくせない別れにまつわる思いがあると感じます」

ミチコ

「私は自分が最近3か月ほど入院しちゃって、その間にホームにいた母が亡くなるという二つの出来事が重なってしまいました。母のことだけでなくて入院すると感染予防で家族も会いに来てくれないのでちょっときつかった」

仕事や楽しみ

新澤

「仕事をしている人にも影響は出ましたね」

田中

「仕事でヘルパーに行ってるのですが、利用者さんも介護者も感染が判明したら大変です。お客さんに迷惑が掛からないように、うがい、手洗いは注意しています。確かに気を使うのですが、人と一緒にいるというのは気持ちの安定になりますね」

袋小路犬太郎

「長く続けた居酒屋のバイトが、緊急事態宣言などの影響でなくなっちゃったんですよ。なくなって思うのは、いろいろな人と働けて充実感があったんだなあということです。その後マンションの掃除に採用されて、なんとかやっています」

岡村

「僕も仕事をしているんですが、コロナになって社会とつながっていたいので、仕事にトライしてみました。コロナを避けて一人で部屋にいた頃もあったのですが、焦燥感が増していくばかりで耐えられなかったですね」

新澤

「よくわかります。仕事を通じて人とつながり、社会とつながっているというのは確かにあります。それにしても、みんなそれぞれに生活が変わりましたね。日々の趣味とか楽しみとかはどうかな」

kagesan

「前は渋谷に行ってウインドーショッピングをしたが、やはり最近は控え気味になりましたね。それでも、平日の空いている時間にゲームセンターには時々行きます。3か月に1回は行かないと貯めているコインが無効になっちゃうので。

とはいえ、コロナ以降、コインゲームも(当たりが)出なくなったんです。常連の人の姿も見かけなくなったし寂しいですね」

ミチコ

「お友達とビリヤードに時々行くのが趣味だったのですが、コロナ以降はお店が閉まってしていけなくなりました」

DRG57

「私はコンビニで立ち読みするのが好きなのですが、まったくダメですね。本にテープが張られて読めなくなってしまいました。買って読むしかないですね。スマホでニュースを読んだりしています」

サイヤ人

「僕は買い物です! 今までは、自由が丘や二子玉川まで洋服を買いに行っていたんだけど、コロナ以降はめっきりと機会が減りましたね。服を買うのが楽しみだったのでちょっと辛かったかな」

新澤

「そういえばハーモニーのみんなが楽しみにしていたレクリエーションもイベントもずっとできないですね。前はハーモニーでバンドをやったりしてましたが、できないままです」

DRG57

「僕の趣味はライブに行くことなんですが、機会も減りました。コロナ対策を万全に整えたライブに何回か行きましたが。全体的には回数は減りました。潰れたライブハウスもあるそうですね」

(続く)

編集後記

2020年、最初の緊急事態宣言が出て、施設自体を開くことが難しかった時期。私たちはただ事態を静観していたわけではありませんでした。

在宅のメンバーたちと頻繁に電話連絡を取り、訪問しました。在宅でできる活動として、ひとりひとりが描いた絵を「缶バッチ」にして販売したり、ビデオチャットを使ったオンラインのミーティングを行ってお互いが顔を合わせるように工夫したりしたのです。在宅生活でひとりひとりが行った創作的活動(絵画・詩・小説など)をまとめたサイトを始めたのも2020年でした。

(「ハーモニーのコロ休み特設ページ」リンクは こちら

今(2023年1月)になって思うのは、「人が集まる」ことには、それ自体に大きな力があったということです。考えてみれば、ハーモニーは「不要不急(※注)」の活動を「密集」してワイワイとやるのが得意だったなあと、今更ながら思うのです。

そんなわけで次回は後編として、最近の様子をみなさんに聞いてみたいと思っています。

(※注)「不要不急」とは、『広辞苑』によれば「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」


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連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞