福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【イラスト】目から光線が出ている人物が、もう一人の人に「大丈夫」と声をかけているかるたの絵札

昔々あるところに幻聴さんが〜幻聴妄想かるたが記録するもの〜(後編) いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.19

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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。 前回の記事では、ハーモニーが生み出した商品であり、日々の記録でもある『幻聴妄想かるた』を眺めこれまでの歩みを振り返りました。

昔々あるところに幻聴さんが〜幻聴妄想かるたが記録するもの〜(前編)

前回に引き続きハーモニーのメンバーで気になるかるたを眺め、振り返った様子をお届けします。 (こここ編集部 垣花つや子)

午後の部

新澤

「お昼ご飯も終わったところで、これからは午後の部です。午後は、ベテランチームがトコちゃんとマッサン、DRG57さん。新人チームがトムさんとスタッフの久保田さんです。よろしく」

トム

「新人?私がですか?」

トコちゃん

「トムさん若いっけ?」

トム

「3年目です」

新澤

「新人と言ってもベテランの風格もありますね」

トム

「久保田さん1年目ですね」

久保田

「いえ、もっと少ないですよ」

新澤

「半年目ですかね。マッサンは何年目ですかね」

マッサン

「14年目です」

トコちゃん

「そうだねー私は長いねー30年いくかもね」

新澤

「僕が29年目だからトコちゃんは28年選手ですね(笑)。 一生の半分近くを一緒に過ごしてますね」

トコちゃん

「私がハーモニー入った時、新澤さんいたね」

新澤

「そりゃあスタッフいないと始まらないですよ」

トコちゃん

「初々しかったね、新ちゃん、初々しかった」

DRG57

「私は、もう20年」

トム

「そんな先輩なんですか」

新澤

「そうですね、大先輩ですよ。というわけで、新人さんが見てこの札は何だろうと思った札をベテランのトコちゃんが解説してくれます」

今が一番いい……のか

トム

「これだ」

新澤

「『今がいちばん人生いろいろあったけど』これは、確か……戸島さーん(呼ぶ)。新しいかるたを作るとき、戸島さんが思い出して提案してくれましたね」

【イラスト】NOW The Bestと書かれたかるたの札
「今がいちばん人生いろいろあったけど」『超・幻聴妄想かるた』より
スタッフ戸島

「はい、これはシュウボウさんですよ、本人がそう言ってたんですよ『今が一番、今の自分が一番いいかもしれない』って」

新澤

「あそこに似顔絵貼ってあるけど」

いつの頃からか壁に貼ってある富樫さん作のシュウボウさん。『新・幻聴妄想かるた』の付属冊子「天国」に使ったもの
トム

「俺に似てますね」

一同

「うん、似てる似てる」

トコちゃん

「ショウイチとつるんで年中一緒にいたよ。あの頃はね、ハーモニーでも毎日、食事の提供があってね。夜も一緒に食べてたから、結局寝食を共にする。同じ釜の仲間っていうかさ」

新澤

「1日中一緒にいて、同じ飯食ってね。スタッフの僕も一緒にいた」

トコちゃん

「男でも女でもお互い助け合って生きてたね、そういう時代があったね、事務所を夜も開放してたよね」

新澤

「僕も夜遅くまで帰らなかった。そうそう、トコちゃんは作業所に泊まってたじゃないですか」

トコちゃん

「私、年中危険な状態だったからね」

黒瀬

「ハーモニーをシェルターにしてた?」

新澤

「そうそうシェルターにしてた。トコちゃん、そろそろシュウボウさんのお話し頼みます」

トコちゃん

「面倒見のいい助っ人でしたよね。メンバーの。自活してましたよね、一人で」

新澤

「でも、幻聴がきつかった」

トコちゃん

「幻聴で精神的に追い詰められてたね」

新澤

「五反田から江の島まで歩いて行って海に飛び込めとか幻聴がシュウボウさんに命令してました」

【イラスト】「come in an walking to enoshima」とつぶやく謎の人々の絵札
「やはりかすかな声『待っています』『ついて来い』五反田から江の島まで歩いてしまう」 『幻聴妄想かるた』より
トコちゃん

「そうひどかったんだよ、日本人の場合。ひとりひとりの状況が精神状態がアップアップでも、一人で自活することを求められてた。社会がそういう風になってたんですよ。今は少しよくなったけど」

マッサン

「僕はシュウボウさんと……あんまり親しくなるチャンスがなかったですね」

新澤

「あだ名をつけて怒られてましたよね?」

マッサン

「そう……怒られた」

トム

「なんてつけたんですか?」

マッサン

「ニコル」

一同

「(笑)」

マッサン

「軽い気持ちで『なにぬねの~ニコル』って言ったら怒られた。でもね、怒ってすまないって謝ってくれて仲直りしましたね」

新澤

「シュウボウさんはカラオケボックスをやろうとお金を借りて店を始めた数日後に、そのボックスから旧日本兵が出てくる幻覚が見えて身動き取れなくなっちゃったって教えてくれた。怖いよね」

マッサン

「僕の父みたいだ。戦争PTSDかな」

新澤

「かもしれない。もうここにはいられないって工事現場の住み込みで働いたけれど、そこで倒れちゃって、そのまま東京都のホームレス支援施設に入ったそうです」

トコちゃん

「野戦病院じゃないけど、ベットだけあって眠れるところね」

新澤

「そういうすごい大変な体験をしたから、ハーモニーに来てのんびり何もせずのんびりできたから今が一番いいよっていう流れだと思う」

戸島

「よく倒れてましたよね」

新澤

「しょっちゅう倒れてた。視界がチカチカして外で倒れるようになって、だからいつもショウイチさんといないと不安だったんだね」

【イラスト】眼科の人にズボンを掴まれている人、眼球、輝く看板が描かれた絵札
「目のせいじゃない色彩が急に鮮やかになるんだ」『幻聴妄想かるた』より。当時のシュウボウさんの不調の始まりは世界がチカチカしてみえることでした
戸島

「病気にならなかったら自分はこうだったああだったっていう人もいる中で、仲間といる楽しい時間が今が一番いいじゃんって言えるシュウボウさんがかっこいいなって思ってた」

新澤

「『ハーモニーは工賃は少ないし、こんな仕事つまらねーよ』って友達は言う訳ですよ。『もっと仕事よこせ』って。それに対して『そんな仕事しなくてもいいじゃねーかよ今いいじゃないよ』ってシュウボウさんよく言ってたね」

戸島

「いろんな経験をして、酸いも甘いも知ってるけど『これが一番いいやー』って言えるシュウボウさんかっこいいって」

新澤

「そう言ったらかっこいいらしいです」

トム

「わかりました(笑)」

I love 静岡

久保田

「はい、これかな?すごいこれ気になってます」

新澤

「『今週のカラオケのニックネームは 首都、静岡市に移転 です』出番ですよ、マッサン。このシリーズまとめて出しましょう。『静岡は独立する』ってのもありますよ」

【イラスト】富士山が見える場所で「首都が静岡に移転しないかな」と演説をする人
「今週のカラオケのニックネームは 首都、静岡市に移転です」『新・幻聴妄想かるた』より
【イラスト】富士山が見える場所で両手を上げて過ごす人
「無駄だった 静岡は独立する 首都になんかなってやらない」 『超・幻聴妄想かるた』より
久保田

「これもマッサンさんですか」

新澤

「静岡はすべてマッサン」

久保田

「静岡に関心があったんですか」

新澤

「静岡が命だった時期がありますからね」

トム&久保田

「へー」

マッサン

「いや、静岡はね。ハヤテベンチャーズがとうとう始動しました。(※注2)」

新澤

「何が始動したの?」

マッサン

「2軍に新潟と静岡が参入して、キャンプがスタートしたんです。新潟と静岡初のプロ野球が始まります」

※注2「くふうハヤテベンチャーズ静岡」日本野球機構(NPB)の2軍ウエスタン・リーグにこの春から参入する球団。静岡市清水区の「ちゅ~るスタジアム清水」を本拠とする。

新澤

「そっか!よかったです。まず静岡という土地はマッサンにとってどういう土地なんですか?」

マッサン

「父の生まれ故郷であり、僕も伊東で生まれました。静岡は東京のマスコミにコケにされていて東京ではほとんど顧みられない、東京のニュースでは何も出てこない」

トム

「地方はみんなそうでしょう?」

新澤

「僕の出身地の広島もあまり出てきませんよ」

マッサン

「よくわかるのは、天気予報ですよ、関東は栃木、茨城、さいたま、群馬、長野かろうじて、神奈川、千葉でしょ、新潟と静岡は絶対に出てこないんですよ」

トム

「(笑)」

新澤

「それは静岡が東海地方だからじゃないですか?」

マッサン

「非常に不運な土地なんですよ」

トム

「(笑)」

マッサン

「名古屋と東京の真ん中にいるから、両方からお前あっちだろうって」

新澤

「コウモリみたいな(笑)」

マッサン

「そう」

トム

「でも静岡ってイメージいいですよね!」

新澤

「うん、いいですよね。色んなメーカーがあるし、温暖な気候でミカンもとれるし」

マッサン

「うーん……でもピアノだって楽器だって」

トム

「ヤマハとかね」

マッサン

「プラモデルだってできるのに、それが静岡から作られて来ていることを東京の人たちは知らない、ニュースもテレビもそれを言わない、一切、言わない」

新澤

「久保田さん今の気持ちわかりますか?僕は広島出身者として少しわかる気がする」

久保田

「私も岩手出身だから……」

新澤

「岩手は東京にいじめられてる気がします?」

久保田

「いや、そこまでではないけど….…ちくしょーとまでは思わないけど、確かに東京がメインすぎる気はしますね、地方に住んで」

マッサン

「それで僕は静岡を日本の中心にする活動をしているんです。首都を地方都市移転説が出てきたんで、七大候補地に静岡と浜松が入っているので、それを言ってやろうと思ったんですよ」

新澤

「ひそかに広島と仙台をライバル視してますか?」

マッサン

「ふふふふ……んーと……そうですねー意識しています。今、都営住宅に住んでるんですけど、天井からヤクザにすべての部屋を覗かれて聴かれてる気がするんです。

それで、ハーモニーもそうなんです。当時僕はタバコを吸っていて、喫煙所に入りびたりで。その時の様子が盗聴盗撮されて。テレビ局に流れてるみたいなんですよ、なぜかというと、僕がハーモニーでやってる言ってることが、街歩いてる人も、電車の中の人も、みんな知ってるんですよ。

そこで考えたんです。それほど覗かれて聞かれてるんだったら、自分の言いたいことをテレビで言ってやれと思って、ここじゃうるさいだろうから、喫煙室の扉をしめて、盗撮用のカメラがある天井に向かって叫んでたんですよ。二年は続きましたね」

新澤

「それが、すごいって僕は思うんです。マッサンを尊敬したのはそれです。普通見られてるから嫌だなとか、隠れたりとか、反撃してやろうとか思うのに、この人はそれを利用して自分と自分の愛する土地を宣伝してやろうと思うなんて、すごいなと思って」

久保田

「確かにすごいですよね」

マッサン

「まあ、果たしてそれが本当かどうか、テレビ局まで僕のアピールが伝わったかどうかははっきりはわかんないでしょうけどね」

新澤

「でも徐々に効果をあげたんでしょう?」

マッサン

「そうですね、天気予報が変わってきました。時たま、3時か4時ごろ出るようになりました」

新澤

「この札を作った頃は静岡を日本の中心にするという首都移転を計画していたんですが、4年後のかるたでは『無駄だった、静岡は独立する 首都になんかなってやらない』に変わるわけですね」

マッサン

「独立しちゃうんです」

新澤

「実際、静岡を見に行ったんですよね、アーティストの深澤さん(深澤孝史)と車で見に行ったんですよ」

マッサン

「はい行きました。そうしたら、ちょっと思ったより小さかったんですよね、静岡市が」

新澤

「がっかりするかなと心配していたら、帰りの車の中で首都になるのはやめだ。そのかわり『静岡は独立するぞ』って、マッサンが宣言したんですよ。それが2枚目の方です。静岡はパルプの産地でトイレットペーパーを日本には売ってやらないって言ってましたよね」

黒瀬

「それは大事件じゃないですか(笑)」

久保田

「大事件だ」

トコちゃん

「オイルショックみたい」

新澤

「まあ、こういう事が、マッサンの静岡の札です。わかっていただけましたか」

久保田

「すごくわかりました。静岡愛を感じました」

マッサン

「わかってもらえてうれしいです(笑)」

新澤

「じゃあ、そろそろ」

久保田

「他にもありますよ、いっぱいあります」

新澤

「あーー。でも、みんな眠くなってきたので」

トム

「俺帰ろうかな(笑)」

久保田

「帰りたくなっちゃってる(笑)」

新澤

「僕もトイレ行きたくなっちゃってる」

トム

「久保田さん盛岡を首都にしましょう。都市でしょ?」

久保田

「そうですね、でも静岡の写真を見て、盛岡はここまで都会じゃないなって思いました」

マッサン

「でも50万人くらいですよね、盛岡って」

久保田

「そんなにいるんだって感じですね」

トム

「へー50万人もいるんだ盛岡って」

新澤

「盛岡の話は今度でいいでしょう……。おわりで」

マッサン

「でも、静岡は今回ハヤテベンチャーズが参入してくれたんで、来年再来年には一軍に昇進すると思うので、明るいニュースですね」

新澤

「そろそろ、おわりで」

翌週のこと。前回の話し合いに来れなかったフミ姫さんも札を見て、いろいろ話をしてくれました。

大丈夫は魔法の言葉

フミ姫

「私がなんだろうなと思った札はこれです」

黒瀬

「『ヨセフが言った カミサマ シンジル ダイジョウブ』」

【イラスト】目から光線が出ている人物が、もう一人の人に「大丈夫」と声をかけているかるたの絵札
「ヨセフが言った カミサマ シンジル ダイジョウブ」『超・幻聴妄想かるた』より
フミ姫

「どうしてかというと、私にとって大丈夫という言葉はとても大事な言葉だからなんです。何かやるたびにノートに『大丈夫』って書くの。お薬は大丈夫とか、通院は大丈夫とか」

黒瀬

「精神的に落ち着くんですね。こまねずみさんの札です」

フミ姫

「はい。でも、これどういう場面なんですか?」

黒瀬

「そう、こまねずみさんの2つ隣の部屋に外国人が引っ越してきたらしいんですよ」

フミ姫

「へー」

黒瀬

「郵便受けを見たらどうやらアッサム・ヨセフという名前らしい」

フミ姫

「ヨセフさんね」

黒瀬

「それである日そのヨセフさんと玄関先で目が合っちゃったんだって、当時、こまねずみさんは、とても調子が悪くて、どうしていいかわからなくて、つい自分から『私は、心の病気』って言っちゃったんだって(笑)」

フミ姫

「大変じゃん(笑)」

黒瀬

「そう、そうしたら、ヨセフさんが『神様を信じれば大丈夫だよ』と言ってくれたんだ。

こまねずみさんは、一瞬、自分が余計なことを言っちゃったなあと思ったんだけど、それでもヨセフさんに慰められたような気もして、ちょっとばかりつらさが紛れたようだよ。

どうしますフミさんならお隣さんに、いきなり会っちゃったら?」

フミ姫

「わたしなら、あいさつしてそれで逃げちゃう、それでおしまいにする。あいさつ大事だよね。でも、人間関係、不安になることはあるよね」

黒瀬

「フミさんは不安になったらどうしますか」

フミ姫

「水を飲んでる!水を飲むと落ち着く」

雨宮

kagesanも水を飲むと落ち着きます?

kagesan

「俺1日に2リットル飲む」

雨宮

「そうなんだー落ち着く方法があるのはいいですね」

フミ姫

「松沢系はみんな水を飲むと落ち着く様な気がする。(※注3)」

※注3松沢系:松沢とは東京都立松沢病院を指す(らしい)。

黒瀬

「松沢系って言うの?(笑)」

kagesan

「それ、俺も入ってる。俺も落ち着く」

黒瀬

「松沢系!?」

新澤

「『松沢系 水を飲むと落ち着く これ基本』 うーん、これはかるたの札になるかも……。こまねずみさんもよく水を飲んでたけれど、水中毒にはくれぐれも気をつけましょう。

では、新人の久保田さんに今回の企画の感想などうかがって、おしまいにしましょう。それではお疲れさまでした」

久保田

「星と喋ってもいいし、オオゼキのマドンナに恋してもいいし、静岡はいいところ。なぜその札ができたかを知ると、納得できる切実な理由があることがわかります。かるたの奥には物語と作者の信念があるので、不思議な内容に思えても説得力を感じます。

いつも本気でかっこいいメンバーさんたちがこれからどんな物語を話してくれるのか楽しみでなりません」

編集後記

世間では「精神障害の症状が理解できる」とか「リアルな生活を描いた」と紹介していただくこともあるハーモニーの『幻聴妄想かるた』ですが、ハーモニーという場に集う人たちの身の上に起きた日々の出来事を残しておく記録という側面もあります。

なんということもない日常を切り取った札もあるにはあるのですが、今回、紹介した札にみるように、幻聴が聞こえ始めて当惑した気分、薬を飲み過ぎて病院に運ばれた失敗談などの症状とつきあっていく中でのエピソードもあれば、不調の最中に遭遇した異国の人のひとことに救われたり、苦労の末たどりついた日々の境地など、彼らならではの感慨も含まれています。

ミーティングなどでポツリポツリと通り過ぎた日々(時には60年以上も前のことも)を振り返って、こんなことがあったけれど、なんとか切り抜けたよとか、しのいだよと苦笑いしながら、言葉を紡ぎ、鉛筆を走らせて、その時のことを絵にしてみる。語った言葉が字札になり、みんながそれぞれに描いた絵の中から絵札が選ばれる。私たちがかるたを作るとのいうのはそれだけのことなのだけれど、15年ほど続けているうちに、ゲストの作ったのも加えると札は数百枚となりました。(書籍化されたのは、その一部です)

平穏な日々ばかりではありません。でも症状の波に翻弄された最中にも苦痛が途切れる時もあると何人かのが話してくれました。ひとそれぞれに耳に馴染んだ音楽であったり数時間におよぶ長電話、大好きなハンバーグ定食、横に居る友人の存在だったり、窓から見える夕焼けやタバコの一服やダジャレだったり。そういう、おそらく福祉的でも専門的でもないことが、つかの間、苦痛を先に送ってくれたりしているような気がします。

そして、先送りの末に夜が明けたり、気がついたら10年いっしょにいたねということだったりすることもあるだろうと思うのです。かるたにはそんな小さな偶然に救われたこととか、ちょっとした生き延びる工夫が取り込まれていて、記録としても私たちの大事な財産となっています。

そして、お別れも突然やってきます。今回の札のエピソード主のうちお三方はすでにこの世の人ではありません。もうお会いすることは叶いませんが、彼らの痕跡はハーモニーの空気の中に染み込み、かるたの中にも息づいているのです。


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連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞