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ご飯を食べること、作ること、ロックンロール いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.22

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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。(こここ編集部 垣花つや子)


2024年の年末は齋藤美衣さんの著作『庭に埋めたものは掘り起こされなければならない』(医学書院)を夢中になって読みました。

幼少期からの、世界と馴染めない感覚、白血病の罹患や摂食障害。そして家族との気持ちのすれ違い。抱えてきた苦しみが周囲から「とるにたらないこと」として扱われてきたことへの気づきと傷つきの自覚を経て、「許す」「謝る」の意味を巡る思索が繰り広げられています。

その中で齋藤さんは、誰かの過ちに「許可」を与えるということはなくて、齋藤さん自身が、他者と共にあることを楽しみ、喜び、愛し、未来を願っていくことが「許す」ことにつながると考えるようになります。そして、自分を取り戻すプロセスのなかで「食べたいと感じたものを私のために作って食べる」ことを見出します。

私は本を読みながら、ハーモニーのメンバーたちと食べ物を巡って話したことを思い出していました。メンバーたちの多くは自炊をしているわけではないので、自分のために作ることにはハードルが高い場合もあるのですが、日々の生活の中で「食べたいものを食べられるうれしさ」や、それが叶わない苦痛を口にすることは少なくありません。

そして、誰かに食事を作ってもらったこと、逆に誰かに振舞ったことを教えてくれたりします。みんなは食べることを通じて、自分自身を祝福し、世界への信頼を取り戻したりすることがあるのだろうか。

25年近い入院生活を経て、ハーモニーに顔を出すようになったメンバーのAさんは、退院して20年近く経つのに、今でも病院食のツラさを語ります。「食中毒が院内で発生してから、すべての魚料理は素材を一回、ボイルすることになったらしいんだ。それがマズいんだよ。今日は焼き魚だ!って喜んでも一回、ゆでた魚を焼くわけだから、パサパサしてね。マズいマズい」。退院してアパートに住むようになって嬉しかったのは、大好きなラーメンを好きな時に食べに行けることだったと教えてくれました。

Aさんだけでなく、退院の時に彼らが語ってくれるのは「食べることができる」喜びです。Bさんは一年近い入院生活を終え、帰宅する途中で、好物のスイカを丸ごと1個買いました。ハーモニーに持ち帰って、みんなで食べたのですが、それを後々まで、楽しかった思い出として語ります。

それから、私の著作『同じ月を見あげて ハーモニーで出会った人たち』(道和書院)に登場するジミーからは退院のお祝いに「冷凍マンゴー」を買ってきてほしいと頼まれました。退院は、人によっては「食べたいものを食べたい時に、食べたいだけ食べられる時間を取り戻した」ということかもしれません。

一方、在宅での生活では、ヘルパーさんに食事を作ってもらう人たちも少なくありません。毎食買い物に行く負担から解放されて、出来たての温かい食事を喜ぶ人、リクエストを出しても自分の好みの味にならないので頭を抱える人。食べることを巡って、様々な喜びや不満が日々の生活のなかで交錯します。

今回は、そんな食を巡るあれこれをテーマに話してみましょう。

まずは「思い出の味」から聞いてみましょうか

新澤

「食べるという大きなテーマにしちゃったのだけど、みんなの記憶の中にある忘れられない味ってなんだろうという漠然とした質問からスタートします(笑)」

金ちゃん

「うーん。もう食べられないかもしれないということで、自分の中で忘れられない味なんですが、祖母が作ってくれた韓国風の納豆です」

みんな

「へー? どんな味なの」

金ちゃん

「作り方聞いておけばよかったな。日本の納豆の味とは全然違うんです。韓国風なんですね。ごま油の風味でお味噌とか砂糖とか七味とか混ぜこんであって、ごま油の風味でおいしい」

新澤

「韓国にルーツのあるご家族だったからこそ、味わえたんだろうね」

金ちゃん

「はい。蟹の料理もあったんです、母が蟹料理を作ってくれて。これも韓国風の辛い味付けでした」

ミチコ

「亡き母の味ということだと、おにぎりと鶏のから揚げがおいしかったです。鶏のから揚げが大きくてね。お弁当なんかに持っていく時は、ちょっと恥ずかしかった(笑)」

マッサン

「母の思い出の味は中学の弁当の卵焼きです。かつおだしで薄味で、僕の母が作ってくれたのは砂糖が入っていたので甘い卵焼きでした。あと、ほうとうですね。母は山梨出身だから」

新澤

「なるほど。僕たちの世代だと出身地によって、家庭の味が違ったりするんかもしれない」

酒井

「僕は静岡なんですけど、とろろ汁というのが故郷の味でした。山芋を、山で見つけてきて、おろし金で下ろす。すり鉢の中で豚か鶏の出汁で作った味噌汁を入れながら、さらに芋を擦って、小一時間かかる。親子で交代で、あんまり味噌汁入れちゃうと芋が煮えちゃう。それをご飯にかけて食べる。消化がいい。腹いっぱい食ったなって思っても30分もすればおなかすいたなーって」

新澤

「なるほど。それってトムのいう宮崎の冷や汁や呉汁に似てるのかなあ」

トム

「どうかなあ。実は私の両親も根っからの宮崎出身というわけじゃないので、冷や汁とかチキン南蛮とか、いまでは宮崎の郷土料理と言われている食べ物は、外食先のレストランで食べたりしたんですよ。家庭の味というと、おふくろのハンバーグとか親父の作ったすき焼きだったなあ」

新澤

「そうか、僕の家もすき焼きの味付けをする役目は親父だったなあ。当時は、そういう習慣があったのかな。小川さんの幼い頃の思い出の食事って、どんなもの?」

小川

「うーん。うちも、すき焼きやりました。練炭火鉢に鍋を置いてやるんです」

みんな

「火鉢!」

小川

「でも、いつも食事といえば、白いご飯と佃煮。おかあさんが炊いたお米はおいしかった」

新澤

「なるほど。それは横浜の頃の記憶ですか」

小川

「はーい。もう60年以上も前のことかもしれませんね。アミの佃煮が好きでした」

新澤

「東京湾のアミを甘く煮た佃煮って今では高級品かもしれないですね。おいしそうです」

フミ姫

「フミです!忘れられない味っていうのとちょっと違うかもしれないけれど、この前、箱根湯本に行ったんですよ」

新澤

「はい。そこで美味しいもの食べました?」

フミ姫

「それがですよ。新澤さん。湯本の町はどこも混んでいて、満員で、食事できるところがなかったんですよ」

新澤

「それは、残念」

フミ姫

「それでね、結局食べたのが、スーパーで買ってウチから持っていった『ミニスナックゴールド ミニ』。3個入りの菓子パンだったというわけです。それが思い出の味です」

新澤

「なるほど。ちょっと残念だけど。お店に並んで窮屈な思いをするよりよかったかもしれないですね。状況によっては、予想してなかったものも忘れられない思い出の味になったりするのかも」

馬渕

「あのー。関係あるかもしれないんですが、昔、山登りで遭難しかけて、寒くて小さな山小屋に入ったんですよ。ものすごく寒くて、おなかもすいていて、探したらバナナだけカバンに入っていたんですね。それを食べたら、びっくりです。今まで食べたものの中で一番おいしかったです」

みんな

「すごい!」

新澤

「バナナ食べたくなった….…」

ごはんどうしてます?

新澤

「今回、食べることをテーマにしたのは、自分の食べたいもの、心と体が求めているものを美味しく食べるっていうことは、自分自身を元気づけ、ケアしていく上で大きなことじゃないのかと本を読んで、思ったからなわけです」

みんな

「はあ」

新澤

「そこで、みんなはそれぞれ、食べものを美味しく食べているかなあということを聞いてみたくなったわけです。自炊の人、外食の人、ヘルパーに作ってもらう人、宅配弁当の人、それぞれだと思うけれど」

マッサン

「そうですねえ。普段、自炊はまったくしないです。自分のために食事を作るということはしないですね。弁当を食べたりするけど。それが自分には一番、無理がないというか」

フミ姫

「私、おにぎりは何とか作ることができるんですよ。梅干を買ってきて、ノリも100円ショップで買ってきて、お米炊いて、梅干入れて握って。いちから練習しました。お米は高いから節約になるからおすすめしたいです」

ミチコ

「フミちゃん、えらい!」

フミ姫

「ふふふ」

トム

「僕は、ほとんど自分じゃ作らないなあ。インスタントラーメンくらいかな。たまに支援センターとかでやってる『男の料理教室』みたいなそういうのに出てみようかなって思うけど、お金がないんだよね。もう少し、自由に使えるお金があったらやりたいよね」

ハルさん

「自分で作っておいしいと感じたのはカレーライス。ほんと、おいしかったですね。豚バラをちょっと厚めに切ってお肉感を出して」

新澤

「一人暮らしだと、自炊はハードル高いよね。それでも時々は自分の食べたいものが口に入るとうれしいね。家族と一緒だとどうでしょう」

馬渕

「自分では、全然作らないんです。親と二人暮らしなんですけど、親の料理がいいというわけではないけれど、馴染んじゃって」

酒井

「うちは妻が作ってくれます。うちの食事でおいしいのは、カレーかな。ルーを2種類、入れる。あとしっかりジャガイモや具が大きいのが特徴かな」

小川

「足がもう少し動いた頃は買い物に行けたのですが。今では通販で届いたものを、チンしたり、辛ラーメンにお湯入れたり、コーヒー淹れたりしてます。同居しているお姉さんも時々、食事を作ってくれます。この前は、チキンと、あれはなんだっけなホワイトソースの……なんだっけな、ごはんにかけて……あ、シチューですクリームシチューを作ってくれました。おいしかった」

DRG57

「白菜チゲが母の得意料理です。私は韓国風ラーメンが好きなんだけど、母には油が強すぎて……豚の背油なんか母はダメなんですよ」

新澤

「わかりますね。家族がいつも食べたいものが同じっていうのは難しい。だって別々の人間だからね」

サイヤ人

「いつも母の手料理を食べてるんですけど、白いご飯が少し残ると、最後お茶漬けにするんですよ、そのお茶漬けがホッとするというか」

マッサン

「梅干しかなんかいれるの?」

サイヤ人

「いや、普通に永谷園のお茶漬けの素。ご飯にかけて、そして緑茶をかける、暖かい緑茶」

みんな

「へえ!」

新澤

「白いご飯のお茶漬けは、ある意味王道ですね」

山口

「こんにちは。突然、口を挟んですみません。ゲストの山口です。田舎が青森なんです。すごい寒い日に、鮭のおむすびに、砂糖が入ってないミルクティーを朝早く勉強していると母が作ってくれたんです」

新澤

「おむすびと紅茶。そういう組み合わせで出てくるのですか?」

山口

「そうです、それがすごい美味しくて、今でも体に刷り込まれてるのか、冬になると食べたくなりますね。もちろん作ってもらったほうが嬉しいですけど、今は自分でその組み合わせで食べたくなってつくりますね」

新澤

「ありがとうございます。そういうハートウォーミングな話がいいですね」

みんな

「(笑)」

新澤

「おもしろいですね。単身生活の人の食習慣がそれぞれ違うように、家族によっても習慣がいろいろあるんだ。白いご飯とお茶漬けがあってもいいし、おにぎりとミルクティーでもいい」

馬渕

「好きな味というよりも、シチュエーションなんですけど、会社行ったときは土曜日の朝ごはんがうれしい。土曜、日曜とお休みがあって長く休めるので、そういう時にノンビリ食べるご飯はいいなぁって」

新澤

「あーわかる、わかる。何を食べるかだけじゃなくて、どんな状況で食べるか」

ミチコ

「私、思うんですけどね。やっぱり、作ってもらうご飯はいいですねえ。亡くなった私のお母さんは、唐揚げとおにぎりのほかにも、酢豚や八宝菜が得意でした。今でも、味と共におかあさんを思い出します。それから義理の兄はおうどんを打ってくれます。それを茹でて、鶏肉とネギを入れて出してくれる。これが絶品です」

新澤

「お腹空いてきた」

ミチコ

「それで私のところのオダカズマサ(※)は、ルーからカレーを作ってくれます。これがおいしい!サラサラしてるんだけど、辛いんです」

※ミチコさんのパートナーはオフコースの小田さんに似ているので、そう呼ばれている。

マッサン

「そういえば。上京前、小学生時代なんですが、母が働きに出てたんで、父が僕のおかずを作ってくれたんですよ、それがいつも同じものなんですよ、でも父は父なりに結構料理の本を買って来ていろいろ覚えたらしい」

新澤

「研究熱心でいろいろ調べてやってくれてたんですね」

マッサン

「そうですね、でもいつも同じ味でした(笑)」

新澤

「だいたい出汁とか醤油の味?」

マッサン

「はい。当時のことですから、肉が入っていたかは覚えていません。ジャガイモとか、野菜が中心の煮物でしたね。いつも、父に対しては批判的なこと言ってますが、そんなこともあったんだなあと」

新澤

「50年前のマッサンのお父さんも、ミチコさんちのオダカズマサも、男性たちが厨房に立って、家族の食べるものを作るのは大事なことですよね。身近な人たちの健康を守るという意味でもね」

ご飯を食べること・作ること

新澤

「自分が食べるものを自分で決めることができるのは、きっと自分を大切にすることにつながるのでしょう。それから、誰かと食事を共にしたり、誰かに振舞ったり振舞われたりするのは、自分と誰かの関係を繋いだり、修復したりすることに繋がる気がします。自分が食べるだけでなく、家族や友人のために食事の準備をすることはありますか?」

田中

「僕は調理の仕事をしていたこともあるので、家で料理を作ることは苦にはならないんです。おふくろが家族会とかでいないときにご飯だけ炊いといて、おかず作ったりします」

金ちゃん

「田中さんのパキスタンカレーは人気だものね。ピア・グループの食事会で作ってもらった」

新澤

「最近、凝っているメニューありますか」

田中

「にら玉です。将来、一人で暮らしたら、自分が好きなものばっかり作っちゃうんじゃないかっていう怖さがあります」

新澤

「ご家族に作ったりもするんでしょう」

田中

「はい。それで思い出というと亡き父に作ってあげたグラタンです」

新澤

「ソースから手作りするのですか」

田中

「はい。ベシャメルソース作って オーブンで焼いて 親父がちょっと感激していました。それから、エビのチリソースです。長ネギをみじん切りにして、中華の調味料とケチャップとお酢、仕上げはオイスターソースで味を整えます」

みんな

「おー」

新澤

「聞いてるだけで、お腹空いてきますね」

田中

「それがね。僕、時々、躁転するじゃないですか」

新澤

「はいはい」

田中

「それで、調子が高い時には、やたらと作りたくなる。自宅の2階で一人暮らししてた頃は、いきなり餃子100個包んで。周りを驚かせたりしました。今でも、夏、パキスタンカレーを作り始めると、おふくろが、『あんた、大丈夫?』『躁転したんじゃないの?』って心配するんです(笑)」

みんな

「わかる、わかる(笑)」

ハル

「自分もカレーライスが好きで、その当時のパートナーに作ったんです。そしたら大失敗。薄くなっちゃって、カレー風味のお湯なんです(笑)」

金ちゃん

「大変だ」

ハル

「それなのに。それをおいしいって言って食べてくれたのが思い出だなあ」

新澤

「金ちゃんもカレーパーティーみたいなことをやってたことありましたね」

金ちゃん

「はい。自宅でカレーを作って、友達に振舞っていたことがありました。kagesanさんとか来てくれたな」

kagesan

「金ちゃんちのカレー、めちゃうまなんですよ」

新澤

「調理のコツはありますか」

金ちゃん

「市販のルーを使う普通のカレーなんですけれど、玉ねぎとジャガイモを入れて灰汁(あく)を取りながら、コトコトと煮るのがポイントです」

新澤

「ジャガイモもトロトロに」

金ちゃん

「煮崩れるまで、トロトロに」

kagesan

「もうやらないの?」

金ちゃん

「最近もやろうかと思ったんだけど、体力的にちょっと大変すぎて、今はやめている。あと片付けや洗い物まであるでしょう」

kagesan

「そうか。おいしかったけれど、残念」

新澤

「カレーにまつわる話は、沢山ありそうですね。パートナーにカレーを作ってもらうというミチコさん。ミチコさんは、うちでご飯を作ったりしましたか」

ミチコ

「はい。オダカズマサに作ってあげるのは、海鮮パスタです。エビとかホタテとか蟹とか入れて、あと最後にイクラを散らせます。それとスペアリブです」

新澤

「オーブンを使ったりするのですか?」

ミチコ

「電子レンジのオーブン機能を使うんです。また、作ってって言われますよ」

新澤

「すてきですね。家族でそれぞれに得意料理があって、作ったり作られたりするのは。僕らの世代だと、家族によっては、性別で役割を決められたり、家事の負担が公平でなかったりして、息苦しくなってしまうこともありそうですが、ミチコさんのところは、それぞれができることをするんですね」

ミチコ

「はい。わたし、今は一時的に一人で施設に滞在しているのですが、また、自宅に戻ったら、食事つくりもしてみたいんです」

新澤

「kagesanも食事つくりすることは、ありますか」

kagesan

「僕は20代の頃、寮に住んでたんです。そこで先輩からチャーハンの作り方を教えてもらったんです」

ミチコ

「それはいいですね」

kagesan

「けど、そこの会社を辞めた後、別の会社の寮に移ったんですね」

新澤

「うん」

kagesan

「そこで、僕がチャーハンをつくって新しい職場の寮に住んでいる人に振るまったんですよ」

新澤

「なるほど」

kagesan

「そしたら、まずいって言われたんですよ」

みんな

「(笑)」

新澤

「普通ご馳走してもらったら美味しいって言うよね」

kagesan

「いや、自分で食べてもおいしくなくて、まずかったです。腕が落ちたなって思いました」

ミチコ

「どこが失敗したの?」

kagesan

「コショウ入れすぎたかなって」

新澤

「最後の味付けが失敗しちゃったのか」

kagesan

「そうですね」

新澤

「卵やチャーシューも加えたりしたんですね」

kagesan

「そうです。野菜炒めとだし巻き卵とチャーハン、この三つは覚えたんですけど、三つともうまくできなくなっちゃって、今ではスーパー世田丸かスーパーフジヤマの弁当食べてます」

新澤

「それで、スーパーの前でよく会うんだ(笑)。そろそろ、時間ですね。今回の『ご飯ミーティング』、予想以上に盛り上がってよかったです。それじゃ、みんなの話したことを歌詞に落として、また、曲作ります!今回はロックンロール!」

ときめき食欲ロックンロールフェスティバルの映像(映像制作
佐々木誠/堀井威久麿)

『ときめき食欲ロックンロールフェスティバル』

1. ニンジン タマゴ、玉ねぎ
キムチに 納豆 カマボコ
キャベツに 豚肉、野菜炒め

2. お茶漬け 佃煮 チャーハン
日本のお米は おいしいよ
おにぎり 梅干し カレーライス

*きょうは ふたりの 初デート たのしく ご飯を 食べよ~

3. えび ホタテ イクラ サーモン
海鮮パスタを 作ります
にら玉 牛肉 卵焼き

4.親父が作った煮物は
いつでもおんなじ味だった
それでも今では懐かしい

5. バナナにトロロにハンバーグ
ベシャメルソースも作ります
母さん得意な キムチチゲ

*きょうは ふたりの 初デート たのしく ご飯を 食べよ~

** 豚骨 ご飯はデリシャス 世界を食べよ 宇宙を食べよ
それでは、お先に、いただきます

*きょうは ふたりの 初デート たのしく ご飯を 食べよ~
** 豚骨 ごはんは デリシャス世界を食べよ 宇宙を食べよ
それでは、みなさん、いただきます

編集後記

メンバーたちに話を聞く合間に、ハーモニーのお昼ご飯作りのボランティアスタッフにもお話しを伺いました。ハーモニーでは週に4回、お昼ご飯を提供しています。調理スタッフは一日に5~10食程度の食事を作ってくれます。現在は5~6人の調理スタッフが稼働しています。その中の中心の一人、トヤマさんです。

新澤

「トヤマさん、ハーモニーのご飯作りはどうですか?」

トヤマ

「はい。わたし、ハーモニーに来る前までは、家族の食事作り以外はほとんど経験がなかったんです。量の加減がなかなか難しいんです」

新澤

「沢山、作ればいいというわけじゃない」

トヤマ

「そう、大勢の人に作るのは世界が違うのね。塩加減も8人分は2人分×4じゃないって、気がついてびっくりしました」

新澤

「それぞれ、味の好みもバラバラだしね」

トヤマ

「はい。ある人は味が濃いと言い、ある人は薄いと言い(笑)。だから、正解がなく、奥が深いのよ」

新澤

「家族以外の人に作るって、どんな感じですか?」

トヤマ

「うーん。人に作ってるって思うでしょ。つくりながら、これはおいしいなあとか、おいしいっていわれてうれしいなあとか、実際は自分のために作ってるのね。あえて言うならば、自分をもてなす感じかも」

新澤

「自分以外の人が食べる料理を作ることも、自分をもてなすことになるのかあ。いいことを聞きました」


自分の五感に注意を払い、今の自分が食べたいものに集中する。自分の体からのサインを探りながら食物(=異物)を取り入れる。冒頭で触れた齋藤美衣さんも『庭に埋めたものは掘り起こされなければならない』のなかで、自分のために料理を作ってみてはと読者に勧めています。

「自分が何かを食べたい気持ちに気づき、それを自分の手を動かして作ることはうれしい行為だと思う。気に入ったお皿に盛り付けて、一口ずつ味わって食べてみてほしい。自分の気持ちを掬い取って形にすることは、自分が自分自身のことを大切に扱うことだ。それが自分を許すこと、生きることにつながる」(p,202)

ハーモニーのメンバーたちのすべてが自炊が可能な状況にいるわけではないです。でも、仮に毎日が外食やスーパーのお惣菜や弁当だとしても、定食屋のメニューやスーパーの棚の前で、少しだけ時間を使って自分の食べたいものについて考えることは、自分を大切にし自分と世界との関係を豊かなものに変えてくれる気がするのです。

おーい。みんな、食べたいもの、食べてますか?

おまけ:スーパー談義は続く

松本

「こんにちは。ゲストの松本です。突然、口を挟んですみません。カレーだと、スーパーの話が出てましたけど。スーパー世田丸(仮名)のカレーがまずい」

新澤

「スーパー世田丸のカレーがまずい?」

ミチコ

「カレーがまずい!?」

松本

「なんか玉ねぎがナマで……」

kagesan

「そんなことないですよ」

松本

「そんなことないですか?逆に唐揚げはすごい美味しくて」

kagesan

「あーなるほど。あれは旨い」

新澤

「スーパー世田丸談義ですね、スーパー世田丸の何店ですか?」

松本

「僕は宮町店(仮名)」

新澤

「宮町店(笑)」

kagesan

「そうですか寺町通り(仮名)とぶつかったところ、四つ角の」

マッサン

「下沢通り(仮名)の真ん中ですよね」

松本

「そうです。下沢通りの真ん中」

新澤

「宮町店は特別美味しくないんですかね」

松本

「どうですかね、曜日とかによるのかな」

新澤

「ここら辺のスーパー世田丸は?」

kagesan

「僕は大鳥居前店(仮名)なんですけどね。そんなことあるかな」

小川

「カツカレー美味しいよ」

新澤

「カツカレー美味しい?それはどこの店?」

小川

「はい、屋敷町店(仮名)。カツカレー美味しいよ」

新澤

「これ、貴重な情報ですが、全然記事にできないんですけど(笑)」

みんな

「(笑)」

新澤

「スーパー世田丸のカレーは色々あるってくらいにしときましょうか」

松本

「はい、仮名にしましょう。それなら大丈夫」

新澤

「私たち、企業名を簡単に出しちゃって、まわりの人が困ってるらしいから」

ミチコ

「はい。それがいいです」


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連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞