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【イラスト】ハーモニーの日々新聞【イラスト】ハーモニーの日々新聞

ハーモニーの思い出のメロディ 後編 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.12

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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。

前回に引き続きテーマは音楽。ハーモニー新聞部のメンバーに思い出の1曲を紹介してもらいました。(編集部 垣花つや子)

ひとことおすすめコーナー

岡村

「いるかの『なごりゆき』です。切ない歌だなあと思います。名曲ですね。リアルタイムではなくて、成人してからこの歌を聞きました」

このんちゃん

「東京事変『永遠の不在証明』です。劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』の主題歌にもなりました。なかなかいい曲です。おすすめですよ」

まさるさん

「Heatlesの『Dreamer』です。1997年15才の時に初めて買ったレコードがこれなんですが、なんと中学3年のクラスメートが出した自主制作盤なんですよ。友達はギター担当でABBAのTシャツを着ていました」

テレビ番組・ラジオ番組・映画編

とこちゃん

「チューリップの『魔法の黄色い靴』です。私は新しいいい曲を見つけるのが好きでね。ラジオのリクエスト番組で聞いて、この曲いいなと思ってレコード屋に探しにいったの。三軒茶屋の太子堂楽器店。今もあるね」

トム

「レベル42の『lesson in love』です。オヤジも洋楽が好きでビートルズとかも家にありました。それもあってか僕も洋楽をよく聞きました。1980年代に流行ったイギリスのバンドです。この曲は86年。大学生の頃に聞きましたね」

DRG57

「松任谷由実の『守ってあげたい』です。1981年の薬師丸ひろ子主演の映画「ねらわれた学園」の主題歌に使われました」

こまねずみ

「ビョークの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』です。2000年の映画のサントラです」

新澤

「昔はFMでもAMでもラジオのリクエスト番組が情報源でした。とこちゃんはそんな番組からチューリップを知ったのですね」

とこちゃん

「オフコースもそんな感じで気に入りました。姉も好きだったのが吉田拓郎。『結婚しようよ』とかね」

新澤

「フォークブームですな」

とこちゃん

「はい。つま恋コンサートにも行きました。かぐや姫もみたなあ」

新澤

「えー!すごいな。トムさんは洋楽ですね」

トム

「小林克也さんのベストヒットUSAをよく見ていました。タワーレコードにレコード探していったりしましたよ」

新澤

「この曲はどんな曲ですか?」

トム

「私はこの曲のLoveと芸能界を置き換えて考えていました」

新澤

「DRG57さんはユーミンだ」

DRG57

「これをきっかけに松任谷由実の曲を聞くようになりました。荒井由実時代の『ベルベット・イースター』なども独特な世界観があっていいですね。1981年頃、この時代はMTVカルチャーっていうか、MVを通じた音楽体験が沢山出来て、私たちの日常が世界と地続きなんだなと感じて、すっかりはまり込んでいました」

新澤

「こまねずみさんは、ビョークが主演した映画ですね」

こまねずみ

「この映画がね、すごかった。見終わったあと、気持ちがスパークしてやばい回路に入ったのがわかったんです」

新澤

「やばい回路に入っちゃったんですか」

こまねずみ

「一緒に見に行った先輩が、きみにとって初めてカタルシス(心の浄化作用)が得られた映画かもしれないねと言っていたのが忘れられない。駅で降りで住宅街を走って帰った。CDも買ったかなぁ」

ちょっと切ない思い出

金ちゃん

「ライオネル・リッチーとダイアナ・ロスの『Endless Love』です。1981年の同名の映画の主題歌です」

クミコ

「太田裕美の『木綿のハンカチーフ』です。淡い初恋と別れを歌った1970年代の名曲ですね」

金ちゃん

「この映画はね、学生の時に見たんですよ。そしてこの曲は失恋して上海に向かう船の上でウォークマンで聞いたんですよね」

新澤

「上海に行ったんですもんね」

金ちゃん

「ホントに自分のための歌だって思いました。ヒロインがブルック・シールズで、主人公が失恋して辛くて、精神病院に入れられちゃう。そこにブルック・シールズが会いに来るんですよ。いやあ、入院した自分にかさねちゃってね。僕もブルック・シールズが会いに来ないかなあと」

新澤

「ブルック・シールズが面会に来たらビックリしちゃう(笑)。次はクミコさん。クミコさんはどうしてこの曲?」

クミコ

「付き合った人が変わってしまったというテーマが私の経験そのものでした」

新澤

「えー。そんな話、聞いていいんですか?」

クミコ

「ノープロブレム!」

新澤

「いくつ位の時ですか」

クミコ

「20〜22歳の頃、私は外資系の会社の日本支部のOLとして勤めていました。同じ年の彼は背が高くてやさしい人でした。アルバイトをして夜学の高校を出た苦労人です。その彼がついた仕事が地方出張の多い営業職でした。地方に行くと頻繁に電話をくれました。たまに東京帰ってくると会社の経費で落ちるからと行ったこともないようなレストランに連れて行ってくれました。バブルの頃です。自分の給料ではとても手の届かない所に連れて行ってくれるんです」

新澤

「電話くれるの、やさしいですね」

クミコ

「私は希望していた転職にも成功し、仕事が楽しくてそのままの付き合いでよかったのですが、彼は少し違ったようです。24歳のある日、彼が高そうなネックレスとイヤリングをくれました」

新澤

「ついに彼が動いたわけだ」

クミコ

「『これは指輪にも作り変えられるからね』と彼は言いました。瞬間に、『プロポーズだ!』と思いました」

新澤

いよいよ、来たか?!

クミコ

「でも、私は結婚を考えることは、どうしてもできません。話を逸らしているうちに、私がその気がないのを察したのか、次の年に彼が友人の紹介で知り合った人と結婚したと聞きました」

新澤

「ああ、切ない話だ」

クミコ

「その時に幼い頃に聞いた『木綿のハンカチーフ』を思い出しました。特に最後のところ」

♪あなた最後の贈り物をねだるわ ねえ 涙拭く木綿のハンカチーフ下さい ハンカチーフ下さい♪ 

(『木綿のハンカチーフ』 作詞:松本隆、作曲:筒美京平)
クミコ

「私も彼が変わらずにそのままでいてくれればよかったのにと思います。私が欲しかったのは宝石じゃなくて木綿のハンカチーフだったのかもしれないなあと思うんですよ」

【イラスト】ハンカチーフを持ちながら結婚の想像をしているクミコさん
新澤

「ハンカチーフで涙拭くわけだ」

クミコ

「まあ、私、涙出たわけじゃないんだけどね(笑)」

編集後記

いかがだったでしょうか。

ハーモニーのみなさんの思い出の曲を教えてもらいました。
それぞれの推薦理由が面白いですね。前編で、ホントはデビット・ボウイが好きなのにマイケル・ジャクソンをあげてくれた姫さん。分かる気がします。それほど「スリラー」のPVは圧倒的でした。お洒落なカフェバーのスクリーンから町の電気屋さんのテレビまで、街のいたるところであのビデオが流れていましたっけ。

【イラスト】スリラーを踊る、マイケルジャクソンらしき人と姫

最後に私の思い出の一曲は『LOVE LOVE LOVE』ドリームズ・カム・トゥルーです。1995年、ハーモニーが開所した歳の事。様々な事情を経て、坂の上の小さな作業所に集まってきた7~8人の人たちの共にハーモニーは始まりました。

ほとんどが初めて会う人たち同士で、お互いに打ち解けるまでずいぶんと時間がかかりました。小さな台所に集まり、なんとなく時間を共にすごしていました。

部屋の奥には小さなラジカセがあって、いつもラジオ放送が流れていました。ある午後の退屈な時間の中で聞こえていたのが、この『LOVE LOVE LOVE』美しいラブソングでした。

最後のコーラスのところで、誰かが「ビートルズの『all you need is love』に雰囲気が似てるね」と言い、「そうだね」と誰かが言い、私は「そうかな」と思ったのです。それを妙にリアルに覚えています。27年前のことです。この曲を聴くとあの小さな台所を思い出します。 (新澤)


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連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞