[レポート]こここパーティー(3周年)活動報告&トーク&交流会 こここイベント|こここ編集部 vol.08
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2021年4月15日に創刊し、先日3周年を迎えた、福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉。これまで歩みを共にしてきた関係者を編集部が招く形で、2024年5月17日、「こここパーティー 〜3周年ありがとうトーク&交流会〜」が都内で開かれました。(主催:マガジンハウス こここ編集部/共催:公益財団法人日本デザイン振興会)
参加したのは〈こここ〉のプロジェクトや記事の制作にかかわるライター、フォトグラファー、イラストレーター、デザイナー、編集者などの制作パートナーと、〈こここ〉へ記事を寄稿している方、〈こここ〉と一緒に事業をしている方など。編集部員を含め約70名が集まって、「あらためまして」や「お久しぶりです」と挨拶が響きあう賑やかな時間となりました。
「個と個で一緒にできること」を合言葉に福祉をたずね、さまざまな方と出会いながら連載や記事を一つひとつ編んできた〈こここ〉。これまでどんなことを思い描き、そしてどんな手ごたえを得ながら、4年目を見つめているのでしょうか。
今回はこのパーティーの内容を、ライターのひとり、遠藤ジョバンニがレポート形式でお伝えします。(撮影:加藤甫さん/川島彩水さん)
〈こここ〉の誕生と、込められた思い
会は〈こここ〉編集部の活動報告からスタート。プロデューサーの及川卓也さんの挨拶のあと、編集長の中田さんから〈こここ〉の誕生秘話や3年間の振り返り、今後の方向性などが語られました。
実は〈こここ〉には、誕生のきっかけとなる別の媒体があります。それが、及川さんが2012年に創刊し編集長を務めた、「ローカル」や「移住」をテーマにしたWebマガジン〈コロカル〉です。
そこでさまざまな土地の魅力を知ると同時に、地域を支える「福祉」にも思いがけず出会う機会が増えていき、新たな媒体への構想が膨らんでいきました。そして2019年、「福祉」と「クリエイティブ」をテーマにしたマガジン創刊にむけたプロジェクトが本格的に始動したといいます。
中田さんが編集長となり、全国の福祉の現場へ出かけリサーチを重ねるなかで、「“ライフスタイル”メディアで知られる出版社が、『福祉』の視点で“ライフ”(命、人生、生活)について発信することの重要性」をひしひしと感じながら、コンセプトづくりと仲間探しに奔走していきました。
生まれた名前は、「ともに」を表す英語の接頭辞「Co-」と、日本語の「個」をかけて〈こここ〉。合言葉は「個と個で一緒にできること。」、そして媒体を説明するタグラインが「福祉をたずねるクリエイティブマガジン」となりました。
このタグラインに含まれている「福祉」。〈こここ〉では、「みんなのしあわせ」を指す広義の福祉と、「福祉制度」のような狭義の福祉の両方を含むことにしているそうです。
また、「たずねる」は「訪ねる(visit)」と「尋ねる(ask)」のダブルミーニングになっています。福祉の現場でこれまで積み上げられてきた実践や経験、専門的な知識や歴史背景、さらに「これも福祉かも」と言えそうな再発見を含めて幅広く“訪ね”、そして福祉とはなんだろうと“尋ねる”(=問う)、そんな媒体にしたいという思いが込められています。
福祉の現場から生まれるアートやプロダクトの紹介だけに留まらず、その根源にある創造性に注目していく。それが「今の社会にとって大切で、もっと広く知られてほしいこと」だと中田さん。
そうした「福祉に宿るクリエイティビティ」を伝えるために、メディアができるのは、その「扉」を作ることではないかと語ります。
中田 誰かの物語でもいいし、自分の悩みに応えてもらえた経験でもいいと思うんです。既存の仕組みでは対応できない状況を前に、新しく生み出された方法や、多様な人が関われるように練られたクリエイティブな伝え方を鍵にして、「福祉」のドアを開け、その世界の光を浴びてみる。すると「あ、私の影の中にも福祉がある。私にもずっと関係のあったことだったんだ」と気づいてもらえるかもしれない。それこそが、〈こここ〉でやりたいことなんです。
と、そのための「コンパス」と呼ばれる編集方針についても触れながら、この日あらためて関係者に向け、“よく立ち止まり、よく話す”という編集部のメンバーも紹介しました。
メディアプロジェクトである〈こここ〉のふたつの顔
〈こここ〉というとWeb媒体の印象が強いですが、実は取材記事や連載を掲載する「メディア」と、専門家やクリエイターと協働してクライアントの課題解決をサポートする「ラボ」のふたつの顔があります。活動報告では、そのメディアプロジェクトとしての運営体制についてもあらためて説明がありました。
メディア部門では、3年間で680本の記事を公開しました。ニュースや展示会・書籍情報などを取り扱うニュース&トピックスが395本、『こここスタディ』『アトリエにおじゃまします』『働くろう者を訪ねて』などの取材や寄稿連載の記事が203本。
このほか、全国の福祉発のプロダクトを紹介する『こここなイッピン』、福祉に広くかかわる一冊を紹介する『こここ文庫』、編集部メンバーが考えていることなどを綴る『こここ編集部より』など、記事は多岐に渡ります。また、取材先紹介をまとめた「こここインデックス」も218件にのぼり、3年間の厚みが形になっています。
一方のラボ部門では、官庁や企業、団体、自治体や大学などをクライアントに、プロジェクトごとに企画を展開しています。具体的には、セミナー運営やパンフレットなどの発行、イベントの企画・運営などを実施してきました。
「〈こここ〉らしく、なおかつ〈マガジンハウス〉らしいポップな方法を探りながら、あの手この手で届けていきたい」と中田さん。取材を通じて知った福祉の現場や、記事を作るなかで協働したパートナーと関係性を築きつつ、Web上で記事を更新していくに留まらない、さまざまな活動が生まれはじめています。
「本当に? どうして?」を問う4年目に
メディアのクリエイティビティをもっと発揮して、“〈こここ〉だからできること”を増やしたい。そう編集部が目指す4年目は、「本当に? どうして?」をあらためて問う年にしようと「マネジメント」「パートナーシップ」「アウトリーチ」の3つを重点事項に据えています。
よいメディア作りのための設計について見直す「マネジメント」。今回のような「パーティー」の開催をはじめ、一緒に活動するパートナーとの関係を深める「パートナーシップ」。そしてメディアやラボの活動を、必要な人へ自ら届けに行く「アウトリーチ」。
よい記事を手がけつつも、そのまま読者を待ち構えるだけでなく「自ら出かけていく機会を増やしたい」と、福祉施設と連携したイベントや、読書会などを計画しているそうです。
そんな未来を描く一方で、メディアとして取材や発信をしていくうえで、戸惑いを覚えたり、「これで大丈夫だろうか……」とモヤモヤしたりすることも少なくないといいます。多くの人に情報を届けられる可能性があること、そこに何を掲載するか選ぶことは、強い力を持つことでもある。情報をわかりやすく伝えようとして、複雑な事象を単純化したり、一方的に美化したりしてしまう危険性もあるでしょう。
こうしたメディアの構造的な課題にどう向き合っていくか、今回のイベントの後半では、クロストークでゲストと共に考えました。
クロストーク「福祉にメディアができること」
活動報告に続くトークセッションに登壇したのは、多田智美さん(編集者/株式会社MUESUM 代表)、入谷佐知さん(認定NPO法人D×P COO)、久保田翠さん(認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ 理事長)、〈こここ〉編集部の佐々木将史さん。それぞれに、取材したり、取材されたり、また共に作ったりしてきた経験のあるメンバーです。
「福祉にメディアができること」をテーマにしたセッションでは、クローズドかつ〈こここ〉と関係が構築できている人々の前だからこそ明かせる、率直な悩みや、現場にある言葉にしづらい価値、ここだけのエピソードなどが飛び交いました。このレポートでは、トークから紹介できる一部を皆さんにもお伝えします。
メディアの機能の一つとして、物事を言葉で表現し人の認識を変化させていくことがあります。福祉の現場で起きていることを新たに「名付け」る意義や課題について、大阪で若者支援に取り組む〈D×P〉の入谷さんは、“ヤングケアラー”などを例に、次のような言葉を会場に投げかけました。
入谷 今までになかった言葉が与えられることによって、本人が「ああ、自分はそうだったんだ。このしんどさには名前があるんだな」と自己認識が出来るようになり、安心感につながったケースはたくさんあったと思います。「自分はヤングケアラーなんです」と他者にも相談しやすくなる。そして、明確な名称があることで社会が課題を認識して、公的な予算などのリソースが集積化する働きもありますよね。
その一方、本人が望まぬ形で「レッテルを貼られた」と感じる場合や、新たに可視化された集団を狙った、悪意ある行為などが横行することもあります。私たちもとくに、SNS上での発信や当事者のフォローの仕方には気を遣います。だから功罪の両面があるんですが、社会を動かす力強さを考えると、それでも「名付けの力」は捨て難いな、と思っていますね。
活動団体は日々、取材を受けるだけでなく自ら発信する場面にも直面しています。浜松を舞台に、さまざまな人が共に生きる社会の実現をアートを通して目指す〈クリエイティブサポートレッツ〉の久保田さんは、24年間の法人活動を広報するなかで感じた社会への伝わらなさを「永遠の片思い」と表現しました。
では、その視点で捉えた〈こここ〉のようなメディアはどんな立ち位置にいるのか。例えば現場で起きているものが「きれいにまとまりすぎている」と感じることはないのでしょうか。
久保田 重度障害のある息子が生まれて福祉事業に関わり始めた当時は、「福祉」はもっとダサくて暗いイメージがあったんです。私自身、「なんでこんな世界に」と一瞬絶望もしました。だから、〈こここ〉のように入口としてしっかりデザインされたメディアがあることは、ものすごく意味がある。「福祉なんて自分には一生関係ないかも」と思っている人々へ、間口を広げる意味でも、大きな役割を担う活動だとは思います。
ただ、福祉って「生きる」ことだから、実際はドロドロしていてものすごくいろんなものを抱えています。そういう、ある種の“毒”みたいなものもちょっとずつエッセンスとして入れていきながら、表出していくやり方はきっとあるんだろうなと思いますね。
“たずねる”側として、さまざまな取材をしてきた〈こここ〉編集部の佐々木さん。印象的だったインタビュイーの言葉を実際に引用しながら、この日は記事づくりで悩んだケースも会場や登壇者と共有していきます。
佐々木 久保田さんのお話のなかに「伝えることが私たちの第一義ではない」とあって、本当にその通りだと思いました。言葉が必ずしも必要ではないケアのあり方も存在するなかで、あえて言葉を与えて記事にしていく違和感は、福祉の現場に行くたびにやはり感じます。
一方で、「部分的に切り取られてしまった場合に誤解を招いてしまう」恐れがあるから、本文に入れられないケースも。現場で語られた大切な言葉でも、記事に出せなかったものはいくつもあって、うまく伝える方法があったんじゃないかな、と後から考えることも多いです。
「編集とは、夜空の星を結んで星座を名づける行為」と語る多田さんは、編集者としてアートやデザイン、建築、福祉、地域にまつわるプロジェクトに幅広く携わります。媒体の取材者としての自分と“個”としての自分を行き来しながら、情報を選び、編集していく行為が、一方的にならない方法を模索したいと語りました。
多田 簡単には言葉にできないことだらけ。だから一つひとつ手繰り寄せるように言葉にして紡いでいく、そういう感覚は常にあります。ただ、言葉だけが伝えるためのツールではないとも私は思っているんですね。なので記事だけでなく、こうした場づくり、例えば過去に〈こここ〉が開いたイベントや、いままさに私たちがいるこのパーティーからも〈こここ〉の伝えたいことは滲み出ているし、編集部の態度が表れていると感じます。
伝えたくても伝わらないことも多々ありますが、伝えるつもりがなくても伝わってしまうこともある。一方で、想像以上に受け取ってくれている! ということもありますよね。受け取る人、読者を信じて、言葉はもちろんのこと、言葉にとどまらない伝え方や届け方にもっと挑戦していきたいと私は思っています。
4つの視点から、悩み多き発信や、メディアとしての向き合い方について胸の内を明かしたクロストーク。この後、参加者同士が意見を交わすシェアタイムも設けられました。
会場からは「クロストーク中、『漂白する』という表現が出てきたときはどきっとしました。わかりやすさや伝わるスピードを求められることが、年々強くなっているように感じています」などの意見が挙がっていました。
パーティーのあとに、パーティーでは
パーティーの終盤は、1時間ほどの交流タイム。その間もクロストークの話題があちこちで聞かれました。
解決することのないモヤモヤを抱えたまま終わったとも言える〈こここ〉パーティー。でもそれも、悩んでは立ち止まり、一緒に考えながら進んでいく〈こここ〉という媒体の雰囲気が滲み、参加者の皆さんにも伝わった時間となったのではないでしょうか。
会場に設置したアンケートボックス「こここ箱」には、モヤモヤをどこか嬉しそうに持ち帰る、来場者からの声が多数寄せられました。
にぎやかなパーティー(集まりの場)が終わっても、一緒に考え、記事やプロジェクトを紡いでいくパーティー(共に歩む仲間)の日々は続いていきます。
4年目に突入した〈こここ〉が、今も掲げ続ける「個と個で一緒にできること」。それは今回のような時間を共有しあえたことで、アップデートされていくものでもあるのかもしれません。
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Profile
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入谷佐知
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事 ディレクター/COO
千葉県出身。無謀にも新卒フリーランスになってしまい場あたり的に生きたのち、株式会社アムにてブランド経営コンサルタントの師匠の下、ブランド戦略・広報戦略に携わり、仕事を教えこんでもらう。2013年、NPO法人D×Pの広報・ファンドレイジング担当に就任。その後マネジャーになり、様々な資金調達プロジェクトを担う。さらに経理労務法務などのバックオフィスのマネジャーになり、独学で勉強しまくる。2019年に同法人理事、2022年にディレクターに就任し、経営および全事業の統括を担わせてもらっている。京都にて、大好きな夫と子と3人で暮らしている。
Profile
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久保田翠
認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長
武蔵野美術大学で建築を学び、東京藝術大学大学院では環境デザインを専攻。卒業後、出身地の静岡県静岡市で、環境デザイン事務所を設立。
長女出産によって、仕事をセーブする必要に迫られ、設計事務所に所属。その後、設計事務所の浜松事務所所長として浜松に移住。
1996年長男たけしを出産。重度知的障害児のため、手術、入院、子育てに追われ、復帰ができず1999年に退職。
2000年、障害があってもたけしと家族が自由に、安心して居られる居場所づくりとしてクリエイティブサポートレッツを設立。2006年NPO法人化。2015年認定NPO法人化。アートNPOとして多様な人たちが共に生きる社会をアートを通して取り組む活動を開始。2008年個人のやりたいことをやりきる熱意を文化創造の柱とする「たけし文化センター」事業を開始し、2010年障害者の通所施設アルス・ノヴァ設立。
2011年から2014年「たけし文化センターINFOLOUNGE」、2014年から「のヴぁ公民館」を開所。独自の文化センターを展開。2016年から個人の存在自体を表現ととらえなおす「表現未満、」プロジェクト開始。障害者福祉施設に1泊2日滞在する「タイムトラベル100時間ツアー」「雑多な音楽の祭典~スタ☆タン!」をスタート。
2018年浜松市中心市街地にたけし文化センター連尺町建設し、3階建ての建物にアルス・ノヴァ、音楽スタジオと一般の人も利用できるシェアハウス、ゲストハウスが併設する。2019年から重度障害者の暮しを通して街を考える「たけしと生活研究会」をスタート。2020年ヘルパー事業所ULTRAに着手。2021年福祉から街づくりを考える「浜松ちまた会議」をスタート。
2022年中心市街地に誰もが利用できる私設私営の公民館「ちまた公民館」オープン。「表現未満、」をもとに、文化によるコミュニティづくりに取り組んでいる。
2017年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、2022年静岡県文化奨励賞受賞。
Profile
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多田智美
編集者/株式会社MUESUM代表/株式会社どく社共同代表
1980年生まれ。龍谷大学文学部哲学科教育心理学専攻卒業後、彩都IMI大学院スクール修了。2004年編集事務所・MUESUM設立(2014年に法人化、現在5名の編集者が在籍)、2021年に出版社・株式会社どく社設立。「出来事の創出からアーカイブまで」をテーマに、アートやデザイン、建築、福祉、地域にまつわるプロジェクトに携わり、紙やウェブの制作はもちろん、建築設計や企業理念構築、学びのプログラムづくりなど、多分野でのメディアづくりを手がける。共著に『小豆島にみる日本の未来のつくり方』(誠文堂新光社、2014)、『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社、2018)など。2024年1月末発行の『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER 14』より編集を担当。
- ライター:遠藤ジョバンニ
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1991年生まれ、ライター・エッセイスト。大学卒業後、社会福祉法人で支援員として勤務。その後、編集プロダクションのライター・業界新聞記者(農業)・企業広報職を経てフリーランスへ。好きな言葉は「いい塩梅」、最近気になっているテーマは「農福連携」。埼玉県在住。知的障害のある弟とともに育った「きょうだい児」でもある。
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