「笑顔でいるのも無理がある♪」と歌う いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞 vol.20
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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。(こここ編集部 垣花つや子)
最近、怒れているだろうか?
5月の初めに不可解なニュースを新聞やネットで見かけました。水俣病の公式確認から68年となった5月1日、患者たちの団体と環境大臣との懇談が熊本県水俣市で開かれた際、団体側の代表者らの発言中、進行役の環境省職員によって、会場に配信されるはずのマイクの音が消されたというのです。
そもそも水俣病は工場排水が原因であることはチッソ株式会社(※注1)も内部実験等で確認していたにも関わらず公表せず、そのような事態を止めるべき機関である国も、高度成長の時代の流れの中で止めなかった。そんな加害の側にいる国の、被害者に対する対応として、音を消すのってどうなんだろう。
そんな話を、ハーモニーでパソコンの前に座っていたDRG57さんとしていました。これって腹がたつよね。それでさ、係の人が笑ってんの。いやだなあ。怒っていいよねと。
そういえば、ちょっと前までの「障害当事者」って、怒っている人が多かった。テレビや新聞を通じて、あるいは、街頭で怒りを表出する人たちがいました。
2000年代になって「障害は人ではなく社会の側にある」と捉えて、社会が作り出した障壁を取り除くことが社会の責務だとする「社会モデル」の考えかたが一般的になりました。障壁を取りのぞかず、放置するのは、社会の側の怠慢であって、当事者が社会に意見を言っていくのは当たり前のこと。時としてそれが怒りのかたちであっても。私はそんなふうに思っています
とはいえ、自分の周りに起きる様々なことを見回し、「これは変だ」「怒ったぞ」と感じるにはエネルギーが必要です。そういえば、最近、メンバーたちと怒った話をしていないなあ。
みんなもちゃんと身の回りの理不尽に怒れているだろうか。2024年の5月、東京の片隅のハーモニーに集まった人は、今、何に怒っているのか聞いてみたいと思いました。
(新澤克憲)
※注1:当時は「日本窒素肥料株式会社、新日本窒素肥料株式会社」
なにに怒ってますか
「いままでちょっと柔らかな感じが多かった『こここ』の連載記事ですが、今回は『怒っていること』をテーマにしようとおもいます。ただ、誰かを非難するとか攻撃するというんじゃなくて社会の理不尽を怒るという感じです」
「自民党の裏金問題と沖縄の米軍基地問題!ウクライナの戦争!」
「そういうの。皆の怒っていることあげてみよう」
「僕の利用している駅のそばの小規模な中高生の進学塾!」
「ふむふむ」
「進学塾のことなんですけど、東京のまあ……東京の悪の組織が背後についているんです」
「どうしてわかるの?」
「塾のCMで女の子は手が膨らんでるんですよ、もう勉強を詰め込まれてね。むりに勉強させられてる」
「手が膨らむほど、勉強を詰め込まれているんだ!」
「それでその塾は2階にあるんだけど、そのビルの1階に音楽教室が入ったんです。良いところに出来たと沢山の人が集まって来て、撮影班までやって来てわいわいがやがやしてたんです。でも翌日みると、もぬけの殻で、半月後に今度は違う音楽教室がやって来てわいわいやってたんです。でも翌日見たらまた、もぬけの殻なんです。きっとその度に、塾が追い出しているんです」
「マッサンさんはこれの何に怒っているんですか?」
「静岡から東京に進出した音楽教室を排除したんですよ。東京の悪の組織が。静岡に対する攻撃なんです」
「なるほどー」
「あれ、久保田さん分かってる」
「はい!何に怒っているかはっきり言ってくれたから」
「東京が静岡を迫害している、東京の塾のバックに悪の組織がいるんですね」
「そうです」
「あらー」
「それから、ぼくんちの近所のコンビニにグルコサミンとか売ってるはずなんですけどね、1ヶ月ほど前からカルシウムとかビタミンとかしかない、グルコサミンは入荷がないんです」
「グルコサミンがなくなるのが悪の組織の仕業なんですね」
「そうです。その果てに鉄やウコンなんてものを入れてきたんです」
「鉄・ウコンのサプリが店頭に並んできたということですか?」
「そうです。それが、悪の組織の仕業なんです。だから僕は仕方がないので別の所で買いだめしています」
「分かってきました」
「そういえば、田中さんの話に時々出てくる組織とは関係ありますか?」
「別物じゃないかなあ。組織はね、僕の言ってる組織を作り出したのは、ひょっとして自分じゃないかって思ってます。自分にその考えがあって、早い話、妄想なんだけど、僕の妄想に周りが合わせてくれているんじゃないかって。だから僕の思っている『組織』は味方かもしれないと思っています。」
「なるほど。じゃ、組織の問題は歌詞に加えないとね」
かんべんしてよタバコ!
「コノンちゃんは何かありますか?」
「下の人や近所の人の吸うたばこの煙が窓から煙が入ってくるんです」
「人のタバコの煙は嫌ですよね」
「妄想よりひどいですね。はっきり匂いが入って来るんです」
「近隣迷惑ですね。田中さんはどうですか?」
「……怒ってるとか、あんまり……僕腹立てるってあんまりないですね。あえて言うと、定番だと思うんですけど、歩きスマホですねぇ。僕は絶対やらないけど」
「ああ、私は歩き新聞やってしまっている!」
「僕は立ち止まるようにしてますよ」
「僕は車の運転しながらスマホしてる人にも怒っていますね」
「腹立ってること……うーん……タバコを吸う場所がない!」
「ああ、それで腹立ってるのか。3兆円位、徴収されているらしいですね、たばこ税。喫煙者は社会に貢献してるのかな」
「英国は禁煙法(※注2)が成立したってよ」
「喫煙者は肩身が狭いね」
「喫煙所を整えて、きれいな場所をつくって、吸いたい人はそこで吸ってほしいですね」
「僕の隣の部屋の人もタバコを吸うんです。ベランダから。僕もタバコを吸うんですけどそれでもタバコの匂いが気になって。人の煙が気になって……」
「人の肺から出てきた空気だからね」
「うわー!いやな言い方!」
※注2:「紙たばこ・電子たばこ法案」英国の下院は2009年1月1日以降に生まれた人が生涯にわたってたばこ製品を買えなくする法案を可決
生きていくだけでお金がかかるが
「小川さんは怒っていることはありますか?」
「食費ですかね」
「ああ……小川さんは家族二人で月に10万円、食費がかかるんですね」
「電気代が高い」
「電車代も高い」
「JRが精神障害者の運賃を割り引きするらしいですよ。でも、僕らには関係ないみたい。(※注3)」
「電車や駅で、怒っている人いますか」
「渋谷駅、人多いところが、いらついた」
「なるほど。車いすユーザーの山下氏は、渋谷の乗り換えで苦労するのだね」
「僕はタバコの存在があることですかね!!昔はぼくはタバコを吸わなかったんです。20歳の頃に先輩からタバコ吸うのって聞かれて吸いませんって言って。じゃあ吸えって。それから吸ってるんです。タバコの箱には『がんになります』とか『肺気腫になります』とか書いてあります、なのに堂々と売っているのがおかしいなって、普通なら売らないですよ。これだけ害があるのに売っているっていう。あること自体がなんか腹立たしい。国がなんかおかしいって感じですね」
「だれでも買えるっていうのが悪いんじゃないですか?」
「再び、タバコに戻りました。タバコの存在自体が良くないと。さすがに今日は誰も吸ってないような?」
「田中さんはさっき吸ってました(笑)」
「小川さん、タバコ弁護の言葉はなにかありますか?」
「だめですねぇ……。高いしねえ」
「(笑)」
「タバコを吸うと便が出やすいっていう良さはありますけどね」
「出た! タバコ擁護派。たしかに腸の活動が活発になる」
「まあ、ダメだと思っても吸っちゃうんです……」
「吸っちゃうんですね」
「良くないんですよね」
※注3:2024年4月1日にJRから発表されたところによれば、割引制度は2025年の4月から始まり、手帳で第1種(1級)の精神障害者の方は割引を受けられる一方で、第2種(2級・3級)の精神障害者の方は、単独乗車で100kmを超えて利用する場合にのみ割引が適用されるようです。多くが手帳2級で単独で短距離の乗車することが多いハーモニーのメンバーにはメリットのない減免と言えそうです。
歌にできるかな
「それでね。この怒ってる話を、歌にしようかなと……」
「ええ?!聞いてない!」
「プロテストソング! パンクで!」
「やれやれ」
「どんな話が出たかな。タバコネタが多いね。タバコマナーを叱る歌になるぞ」
「タバコ多いですね」
「歌詞にできそう?」
「タバコ売るな タバコくせぇ タバコやめろ……」
「爆笑」
「曲調はどんな感じですかね」
「じゃかじゃかじゃかじゃか」
「ギターねぇ……」
「新澤さん弾いたら?」
「うん。じゃあ金ちゃんも一緒に。歌詞を一つずつみんなで言っていこう」
「タバコ、高いぞ!売るなあ!!」
「わかった、わかった。ちょっと、タバコから離れましょう」
「悪の組織はもう……あのーなんだ……」
「長そう……」
「8文字くらいにしてもらえる?」
「もう断末魔 東京の組織」
「地球の温暖化を止めろ」
「脱水になるぞ」
「電車代高い」
「怒り……怒り……うーん。JRに障害者割引をつけろー」
「障害等級を問わずにね」
「知り合いのおばあちゃんにいつもお使いを頼まれるんです。だから買い物頼むな!」
「バナナが高い」
「(笑)」
「沖縄基地とか戦争とか裏金とか……」
「砂かけ、やめろ(※注4)」
※注4 砂かけ:外出した小川さんに「かゆい粉」をかけて、痒い思いをさせる悪い一味
「血管プッツンタバコで爆発」
「僕はハーモニーのみんなが帰った後に片付けずに残されたコップを見ると絶望するな」
「ああ」
「久保田さんは?」
「怒ってることがないからな……」
「給料上げろ?」
「いやいや。セクハラ! 勘弁してもらいたいですねぇ。」
「セクハラやめろ!」
「(おなかをたたく)これで、『たばこーやめろーたばこ―やめろー』っていうのはどう」
「任せた」
「それじゃ、今のみんなの話をまとめて、詩にして、曲を作ろう。動画も撮ろう!!」
2週間後。田中さんと金ちゃんがギターを練習し、その場で思いついたメロディーを乗せて、アンガーの歌が完成しました!水曜日の午後、たくさんのゲストも加わって動画をPVを作りました。撮影はこの4月からスタッフに加わった映画監督でもある佐々木誠さん。怒りの歌だけど、楽しい収録でした。
『アンガーのうた』 作詞・作曲・演奏 ハーモニーバンド
わたしはとっても
おこってるよ
とってもとっても
おこってるぞ
食費が高い
バナナが高い
電気が高い
渋谷が混んでる
血管プッツン
タバコで爆発
タバコを売るな
止めるの大変
(サビ)
Ah~笑顔でいるのも
無理がある
怒・怒・怒・怒・怒
アンガー、アンガー、アンガー、アンガー
精神にもね
割引してよ、JR
買物頼むな
沖縄に基地つくるな
断末魔だぞ
東京の組織
温暖化とめて
脱水になるよ
裏金やめろ
砂かけやめろ
セクハラするな
コップ片付けてね
わたしはとっても
おこってるよ
とってもとっても
おこってるぞ
(サビ)
Ah~笑顔でいるのも 無理がある
怒・怒・怒・怒・怒
Ah~笑顔でいるのも 無理がある
怒・怒・怒・怒・怒
一方その頃、こここ編集部では(執筆:こここ編集部 垣花)
垣花:うーん、どうしよう……。
アンガーの歌の動画を受け取った連載担当、垣花は悩んでいました。動画のなかに、中指を立てる仕草、いわゆる「ファックサイン」が入っていたからです。
個人の行動の良し悪しではなく、そういった表現がウェブメディアに掲載されるということをどう捉えればいいのか。動画データを受け取った直後「編集部に持ち帰って考えたい」と新澤さんにお伝えし、編集部内で共有し、話をしてみたのでした。
【前提】
中指を立てるという行為をインターネット上に載せることをためらっている理由
→中指を立てる行為、ファックサインは、性的な意味も含めて他者を侮辱する仕草である
→それを「こここ」というメディア記事内に引用される動画内で掲載される=その仕草をよしとすることにもなりうる
→人の尊厳を傷つける意味がある以上、ファックサインを肯定することはできない
【今回の動画の背景について】
今回の中指を立てる仕草は、個人へ向けたものではない
戦争や基地を含めて、世界に対する怒りを示したものである
怒りの表現を、試行錯誤したなかでの表現でもある
【垣花が認識している〈こここ〉として避けたいこと】
前提に書いた、他者を侮蔑する仕草を、読者にふいうちで届けてしまうことは避けたい。こここがファックサインをよしと思っていないことは示したい。(垣花から編集部メンバーに送った文言)
垣花:わたしは、こういう風に捉えているのですが、どうでしょう?
岩中:海外に住んでいる知人から、ファックサインをしたら相手に激怒されたとか、周りからすごく引かれたという話を聞いたことがあります。日本だと音楽の文脈とかファッション的にこのサインを使うことはあるけれど、場所や文化が違えば意味合いが変わるんだなと思ったのを覚えています。
編集長 中田:そうですね。国際的にみても強い侮辱の意味を持つサインをメディアに載せることの責任も考えたいし、ただ一方的に掲載NGにすることも〈こここ〉としては違う気がする。
垣花:そうなんですよね……。事前にテキストでもお伝えしましたが、個人の行為の良し悪しの話ではなくて、インターネットとかSNSの特性を踏まえて、どう判断すればいいのか悩んでいて……。
ちば:SNSで切り取られる可能性があるということを考えたときに、本意ではない切り取られ方が起きないようにできることはないかという視点もあるかもしれないな、と思いました。
編集長 中田:具体的にどう進めるかという話の前に、現状感じていることも含め一旦、わたしが新澤さんと直接お話してもいいでしょうか?
佐々木:編集部で挙がった懸念を、ハーモニーのみなさんにお伝えることはしたほうがいいと思います。
まだまだ続くハーモニー。NG表現と怒りについて考える
中田さんと新澤が打ち合わせをする前、動画収録の翌週のミーティングのことです。
「あの~、動画について相談があります。『こここ編集部』からメールが来たんですよ」
「なになに?」
「kagesanが手招きし、沖縄基地反対の歌詞にあわせて中指をたてるシーンのところが、あるでしょ。編集部として、立ち止まって考えたいと思ったんだって」(※撮影された動画ではkagesanが歌いながら、中指を立てるシーンがある)
「ふうん」
「あのサインは、外国ではお行儀悪いというか、”Fuck you”(くたばれ、くそくらえ)で喧嘩になっちゃうんだよね。それに性的な意味もある。僕とすれば、そのサインが特定の誰かに向けた悪意ではないこと、今回のテーマが『怒り』だったので、生活の実感を伴った社会に向けた表現として『あり』なんじゃないかと言ったんだけど。こここ編集部としては、その表現がもともと持っている攻撃性が『こここ』を通して広がっていくことにためらいがあるということを言ってくれたんだ。編集部の方針は分かるし、尊重しようと思う」
「うーん。ぼくはこれでも大丈夫なんじゃないかと思うなあ。忌野清志郎がテレビカメラの前で放送禁止用語を叫んだ時も、音楽活動をやめさせられたわけではなかったでしょ。大丈夫なんじゃないかなあ」
「そういえばkagesanは今日来てませんね。ご本人の意見は大事ですね」
「今日は都合が悪くて来てないけど、kagesanにこんな感じで編集部から意見が来てるんだと伝えたら、『まずかったかな。渋谷の街を歩いたら刺されると怖いな。何か、映像処理できませんか』て言ってました。そういうわけで、kagesanの気持ちを尊重するなら、そのまま出さない方がいいかもというのが、現時点の僕の思ってること」
「ふうん。(映像の加工は)ハーモニーらしくないかもだけど、モザイクやぼかしが入っても、不思議感が出てていいかも」
「うーん。佐々木監督の技術で加工して、中指を違う指に変えてもらうのはどうかなあ。」
「モザイクではなく宇宙人で隠すのはどうでしょう」
「おもしろい。象の鼻にするっていう案も出ています」
「イラストにしたらどうですか。イラストで動かすの。画面で、指を隠して。ははは」
「FBにでてくる、ほんわかした絵文字……四葉のクローバーはどうですか」
「グーで親指立てるのは?」
「GOOD! それじゃ『良い』って意味になっちゃう(笑)。ええと、マッサンの意見だけど、さっき僕も『おもしろい』って言ったんだけど、ちょっと待ってね….…ほんわかするのもいいんだけどね。ちょっと、引っかかるんだなあ」
「どうして?」
「だって、怒ってるわけでしょ。景気が回復したとか言ってるのに食費がかさんで生活が苦しくなっていたり、精神もJRの運賃の障害者割引の対象になっても、いろいろな条件があって我々には恩恵が無かったり、沖縄ではジュゴンのいる海が埋め立てられて基地が作られてる。そういうことに怒ってたわけですよ。みんなは。怒り方がお行儀が悪いって注意を受けたから、ほんわかした表現にしちゃうのは……」
「だから、握りこぶしの画像にするのもいいね!」
「そう! だから、怒ってることは、わかるようにしたいんだけど」
「あまりに隠し過ぎると表現すること自体の否定とかそういうことにも繋がりますよね」
「怒りねぇ……怒りですか……携帯の絵文字じゃないけど、船のいかりの絵文字を入れるのはどうですか?」
「『船のいかり』と『怒り』ね(笑)。そういう、もとの感情を失わずにギャグとして見せるのは、面白いかも。実は、佐々木誠さんにギャグの可能性も含めて2パターン、作ってもらいました。一つは中指を立てた手の上に炎と『怒』の文字をかぶせたもの、もう一つは中指を立てた手に炎と『コンプラ』の文字を被せたものです。みんなはどうすればいいと思いますか。もちろん、後からkagesanにも見てもらわなくちゃね」
さてさて、ハーモニーのメンバーたちが選んだ動画は?ご覧ください!
一方その頃、こここ編集部ではその2(執筆:垣花)
ハーモニーでのミーティングが行われた後、中田さんと新澤さんふたりの打ち合わせが行われました。その内容は、他のメンバーも確認できる形で記録を残してもらい、編集部メンバーで確認。修正いただいた動画もメンバーそれぞれが確認した後、垣花も含めた3人で今回悩んだことや感じたことをお話しています。
そして最終的には、今回の記事に編集部視点のパートも入れる形を取りました。読み手側のことを考えると、登場人物が増え、視点も増えてしまうので読み解くハードルが上がってしまうとは思います。でも、よく悩み何度もやりとりを経たことを少しでも残したかったのでした。
編集後記
いかがだったでしょうか。ハーモニーのみんなが怒っていること。
当初の目論見だった「社会の理不尽」に怒るというよりも「タバコマナー」を叱るという流れになり、途中からどうしたものかと思いながら、メンバーたちの話を聞いていました。
しかし、ひとりひとりの言葉を追ってみると、食費や電気代の高騰、通所施設の利用者には恩恵がなさそうなJRの精神障害を対象とする運賃減免の話が続きます。タバコが健康面で有害なのは、みんな知っていることですが、喫煙するメンバーにとってはタバコは家計にも関わっています。
ちまたでは、大手企業は33年ぶりの高水準の賃上げだと賑わっているのに、私たちハーモニーのメンバーたちの生活は物価高騰に収入が追い付かず、生活はむしろ厳しさを増しています。それなのに止められないタバコ。2006年に300円だった主要な銘柄が、今や580円。そりゃ、いらいらしますね。実は怒っているのはタバコだけでなく、自分たちの貧困を引き起こしているものに対してかもしれません。
動画公開をめぐる編集部とのやりとりもあり、考えることの多い今回の記事でした。あらためて、自分たちは怒ることに不器用だなあと思います。
確かに「怒り」は人を傷つける危険があります。ネット上の無神経な中傷や、職場や家庭の中での非対称の関係から生じるハラスメントや虐待。自分だけの「正義」を振りかざし、自らの攻撃性を正当化し「怒り」を向けるのは、暴力と同じです。
他方で命が危険にさらされる場面や、人間としての権利が奪われ、尊厳が損なわれるような事態に際して、私たちはもっと「怒り」を表出していいのではないかと感じることもあります。障害に関わる現場に長くいると、社会の中で立ちはだかる理不尽な障壁に抗議する時には、怒りの形をとってしまうこともあります。
いにしえの哲学者アリストテレスは「然るべきことがらについて、然るべきひとびとに対して、さらにそまた然るべき仕方において、然るべきときに、然るべき間だけ怒る人は賞賛される」(※注5)と書き記したといいます。
※注5『ニコマコス倫理学 上』第5章より(岩波文庫)
やはり怒るには相応のマナーが必要なのかな。上手に怒ることは大事かもしれない。ただ、マナーを習得した人のお行儀のよい表現だけしか発信できないとしたら、私たちのような現場の姿を伝えるのは、なかなか難しいとも思うのです。
そんなふうに、怒りや表現について、とりとめもなく考えるのでした。おつきあいいただいた「こここ編集部」に感謝します。
そうだ。僕の怒りを入れてもらうのを忘れていたので、最大級の激怒と共に、最後に言っておきます。
Stop Genocide!!
Don’t Kill Children!! (虐殺やめて!こどもを殺さないで!)
(新澤克憲)
Profile
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-
新澤克憲
就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長
大学院中退後、デイサービスの職員、塾講師、木工修行を経て、共同作業所ハーモニー施設長(1995~2011)就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長(2011~2022)。現在は特定非営利活動法人やっとこ理事長。基本的に人見知り、ひきこもり気質に加え体重増加中のため、あまり動かない。記憶と記録、語りと言葉、そして人びとの居場所について関心がある。休日はパンクバンド「ラブ・エロ・ピース」のノイジーなギタリストとして活動する。2024年4月には、30年の間にハーモニーで出会った人たちとの日々の出来事を記録した『同じ月を見あげて ハーモニーで出会った人々』を道和書院より刊行した。他にも共著書『超・幻聴妄想かるた』(2018年、やっとこ)。写真撮影:田中ハル
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