福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【イラスト】ハーモニーの日々新聞【イラスト】ハーモニーの日々新聞

植物を育てること、人が集まる場所を育むこと 上町よいとこ2 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞  vol.04

  1. トップ
  2. いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞
  3. 植物を育てること、人が集まる場所を育むこと 上町よいとこ2

ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。

「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただくこの連載

ハーモニーがある東急世田谷線上町駅の両隣にあたる「宮の坂駅」「世田谷駅」付近でメンバーが取材を実施!

絶妙なネーミングのたこ焼きの正体、動かない鉄道車両のゆえん、メンバーが気になっていたお店への立ち寄り、お花屋さんのインタビューと盛り沢山です。

日々新聞を通してだからこその出会い、あるいは出会う手前の予感、出会い直しをお楽しみください。(こここ経集部 垣花)

上町駅から世田谷線に乗って

10月も半ばに差しかかり、毎日の気温の変動が大きくなってきました。朝、何を着ていくか迷うことも多くなりましたね。今回は、ハーモニー最寄の上町駅から電車に乗って、両隣の駅まで足をのばしてみました。

【イラスト】ハーモニー新聞部のメンバーが並んでいる
左から田中さん、こまねずみさん(上)、姫(下)、ヒロちゃん、金ちゃん、マッサン、ミチコ、このんちゃん

いきなり食レポ

今日はあいにくの雨。暖かいものを食べたい気分です。上町駅の隣の、宮の坂駅まで出かけて、たこ焼きを買うことにしました。

こちらが駅前にある京風たこ焼きの店「たこ坊」です。道を挟んで奉納相撲で知られる「世田谷八幡宮」があり、境内の大木が周囲に豊かな緑の翳(かげ)を作っています。豊富なメニューと穏やかな関西弁の店主さんが魅力的なハーモニーメンバー御用達のお店です。

【写真】たこ焼きの店「たこ坊」の外観

姫とこまねずみさんの出動です。姫さんはアニメ好きでハーモニーでは猫を題材にしたコラージュ(ネコラージュ)を制作しています。パートナーのこまねずみさんは、博識な本好きで日々の図書館通いが日課です。

【写真】どこかイカに似た格好をしている、こまねずみさんとひめ、2人のそばに立つ看護実習生
たこ焼きを買いに行くのに、どこかイカに似ている二人。写真右上がこまねずみさん、写真中央が姫。

お店に到着。レジの横に氷川きよしさんの写真がさりげなく貼ってあります。店主さんによるとはじめてテレビ番組にお店が取り上げられた時に来店したのが、氷川きよしさんでした。それ以来、応援しているとのこと。

今日はオーソドックスな「ソース味」とネーミングに惹かれて「小雪」を買い求めました。「小雪」ってなんだろう。楽しみです。まだ温かいタコ焼きを持って、宮の坂駅から電車に乗って帰ります。

車椅子ユーザーにとって、交通機関のアクセスは大事。世田谷線ではホームで待っていると、乗務員さんが電車に積んであるスロープを設置してくれます。地下に潜ったりエレベーターを使う必要が無く、ホームまでの高低差が少ないので、気軽に利用できますね。乗車して3分。姫とこまねずみさんは上町駅に到着しました。

【写真】世田谷線の車両に乗り込むこまねずみさんとひめ
この写真は2018年に齋藤陽道さんに撮っていただいたもの。『超・幻聴妄想かるた』p.115より(新澤克憲+就労継続支援B型事業所ハーモニー著、やっとこ)

ネコ電車を背景にホームで記念撮影です。おつかれさまでした。

【写真】東急電鉄の車両の前にいるこまねずみさんとひめ。車両には猫のイラストが描かれている
撮影協力:東急電鉄

それでは「食レポ」です。実習に来ていた看護学部の学生たちも一緒に。最初にオーソドックスなソース味。

【写真】ソース味のたこ焼きが小皿に乗っている
ミチコ

「なかはトロッとしていて、外がカリッとしています。ソースもおいしいですね。」

このんちゃん

「もっちりふわふわ、後味さっぱり、大きなタコ、おいしかった。」

マッサン

「たこ焼き、柔らかくていいですね。」

看護実習生その1

「ソースがちょうどいい!」

看護実習生その2

「中までぎっしり。ボリュームがあり食べ応えがある。」

大好評です。

【写真】小雪と名付けられたたこやきが小皿に乗っている

続いて、「小雪」です。小雪の正体は、ソース味のたこ焼きに揚げ玉のトッピングでした。

田中

「おお!揚げ玉だ。」

ヒロちゃん

「揚げ玉とタコがマッチしています。」

金ちゃん

「タヌキうどんを食べていると錯覚しました!」

「食感がおもしろい!」

看護実習生その3

「だしの香りがする。揚げ玉がサクサクで新食感です。」

こまねずみ

「こういうのか・・・他のメニューも楽しみだな。」

「白いネギかな」「まさか、かき氷入り?」などと、みんなで「小雪」の正体をいろいろと想像していたのですが、揚げ玉とは意外でした。加えて、だしの香りが新鮮です。京風のたこ焼きの特徴は、ダシがきいていることだそうです。

ごちそうさまでした。みなさんも世田谷線に乗ったら、途中下車して「たこ坊」に寄ってみてください。

謎の展示車両

宮の坂駅には、昔の車両が展示してあります。翌日、金ちゃんとマッサンが写真を撮ってきてくれました。ずいぶんと年季の入った車両ですね。この電車には、どんないわれがあるのかな。

【写真】緑色の展示車両
【写真】展示車両に乗り込むメンバー
「静岡行き、出発進行だ!」

まちもりカフェ

宮の坂駅にあった車両のことは「まちもりカフェ」の店長の三輪さんが教えてくださいました。

「あの電車は、元は玉電(かつて渋谷と世田谷区方面を結んでいた路面電車の通称。現在は世田谷線の区間だけが残っている)で走っていたのだけど、その後、鎌倉の江ノ電で活躍。現役引退後、里帰りしてきて展示されている」というのです。調べてみると、大正の末に製造され、引退するまで65年間も走り続けたようです(注1)

(注1)東急世田谷線50周年特設サイトより 

「まちもりカフェ」は上町駅から三軒茶屋方面に一駅いった世田谷駅の前にあります。全国から電車好きが訪れる場所なのです。ミチコさんとお訪ねしました。

【写真】まちもりカフェの外観

ここは、世田谷駅前商店街振興組合の呼びかけで作られた地域コミュニティ施設。地域の交流スペースとなっていて、ちょっとひと休みしたり、趣味のサロンになったりしています。オリジナルの「たまでん羊羹」や「たま電Tシャツ」などを企画販売しています。さらに世田谷区の「お休み処」として、夏の間の休憩所、給水所として近所の人たちにも親しまれています。

ミチコ

「よく前を通るけれど、あそこは何かがあるのかなあといつも思っていました。」

三輪店長

「ひとことではまとめられないほど、様々なことをやっていますよ。サロンから子育て支援、ショップまで。困ったことがあったら気軽に声をかけてください。」

ミチコ

「一日に何組ぐらいの人が集まるのですか。」

三輪店長

「5組くらいです。」

ミチコ

「休憩に来ていいのですか。」

三輪店長

「トイレをお貸ししたり、夏の間の休憩場所としてお水を差し上げたりしていますよ。」

ミチコ

「それはうれしいですね。これからもよろしくお願いします!」

小さな花屋さん ao_

再び、上町に戻ってきました。ヒロちゃんが行きたいと推薦してくれたのがこちらの花屋さん。ヒロちゃんはコロナのおかげで居酒屋さんのバイトが終了してしまい、ちょっと気落ちしています。

新澤

「ヒロちゃん、どうしてここが、おすすめなんですか?」

ヒロちゃん

「うまく言えないんですけど、ともかくいい感じなんですよ。こぢんまりしていて、落ちついた感じです。金ちゃんちに行く途中で偶然見つけたのです。彼はお父さんの葬儀の時にも、ここでお花を買ったらしいですよ。」

新澤

「なるほど。とにかく行ってみましょう。」

【写真】あおの店頭に複数の植物が並んでいる

お店の名前は「ao_」です。店先に花や鉢物が沢山並んでいて、道行く人が立ち止まって眺めていきます。

出迎えてくれたのは、店主の山本さんです。会社員だった山本さん、花屋さんになりたいと思い、大きな花屋さんの店員を経て2年前に上町にお店を開いたそうです。

ヒロちゃん

「どんな時、花屋さんをやっていてよかったと思いますか。」

山本さん

「お客さまの喜ばれる顔を見たときでしょうか。花を見たときに、お年寄りの表情がパッと明るくなったりするのをみると、この仕事していてよかったなあと思います。」

新澤

「僕みたいな不精な人が、鉢植えを育てるコツは何かありますか?そして、お勧めの植物はなんでしょう。」

山本さん

「植物を育てるにあたって大事なのは、注意をはらって様子を見続けることです。水は足りているかな、新しい芽がでたなとか、変化に気がつくこと。そこにある鉢植えもちょっと置く場所を変えてみたら、元気になってきました。ガジュマルやゴムの木はどうですか。わりと丈夫ですよ。」

新澤

「ガジュマル、僕も育ててますよ。たしかに楽です。」

ヒロちゃん

「どうして上町にお店を開くことにしたのですか。」

山本さん

「もともと世田谷線が好きで、沿線を探しているうちにこの場所を紹介されました。郵便ポストが店の前にあったり、道のお向かいが小学校だったりしたのが良くて、ここにしました。」

ヒロちゃん

「実際に開いてみてどうですか。」

山本さん

「上町のお客さんは、花束を選ぶ時でも、この花を入れてほしい、こんな感じにしてほしいという自分の好みを持っている人が多い気がいます。人通りは思ったより少ないけれど、店先に鉢植えをおいて、通り過ぎる人に見てもらえるようにしています。」

新澤

「やっぱり植物はいいですよね。」

山本さん

「お部屋に花を飾ってみるとわかるけれど、一輪でも家にあると、生命が家にいることの良さが判っていただける気がするんですよね。自分に余裕が生まれるというか。これからの季節(10月末)には、ダリア、秋色アジサイがおすすめです。」

ヒロちゃん

「最後に山本さんの夢はなんですか。」

山本さん

「これからの事というより、今、お店をやっていることが自分にとって大事ですね。」

ヒロちゃん

「とてもたのしかったです。大好きだったバイトが終了して落ち込んでいたのですが、花に囲まれた空間にいると気持ちが和みますね。お客さんの気持ちにあわせてお花をアレンジしてくれるのは素晴らしいです。」

【写真】あおの店頭で並ぶやまもとさんとヒロちゃん

編集後記

ハーモニーの上町紹介、いかがだったでしょうか。たこ焼きを食べて昔の電車を見て、電車好きの人がやってくるコミュニティカフェを訪ね、世田谷線沿線が好きで上町にお店を開いた花屋さんに行きました。期せずして世田谷線つながりの新聞となりました。

”植物を育てるにあたって大事なのは、注意をはらって様子を見続けることです。水は足りているかな、新しい芽がでたなとか、変化に気がつくこと” 

そんな「ao_」の山本さんの言葉に頷きました。この新聞の2回目に私が書いた「いつも」を基盤にした場所づくりにつながっているような気がしたのです。

樹木と共に過ごす時間も、丁寧に相手を感じながら、いつもと同じことに安堵し、変化に心配したり、ワクワクしたり。元気がないとちょっと置き場や日光があたる向きを変えてみる。そんな対話的なやりとりを重ねていくことが大事だということ。

それは人のいる場所を作り、維持することにも共通します。私もガジュマルを枯らさないように、毎日、ちゃんと家に帰って対話したいと思います。

さて、次回はどうしようかな。もうすぐ上町銀座のイチョウがきれいに色づく季節です。

(ハーモニー新聞部+新澤克憲)


Series

連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞