あなたはどうやって休んでいますか? ハーモニー流養生訓 前編 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞 vol.09
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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。
「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。
今回のテーマは休み。ハーモニー新聞部それぞれの休み方を伺いました。前後編の前編をお届けします。(編集部 垣花)
休むってなんだろう?
さて今回のお題は「休む」です。
私が知る範囲で言えば、ハーモニーのメンバーは「疲れた~」という言葉を頻繁に口にします。超・幻聴妄想かるたにも「生まれたときからずっと疲れています 習慣疲労」という札があるくらいです。
メンバーたちはそれぞれに、自分自身の気持ちのありようや人間関係に生きづらさを感じているように思います。
職場や家庭、友人関係の中で自分が安らげない。理解されている実感が得られない。それどころか自分自身ですら、自分の中で起きていることが腑に落ちない。
そんな繰り返しの中で疲弊し途方に暮れている。それでも、日々の生活は待ってはくれない。
そして「疲れたなあ~」という言葉が口をつきます。
身体を使って疲れる。キモチが疲れる。コロナ疲れ。自分の症状で疲れる。休みすぎて疲れる。休みがなくて疲れる。疲れも様々です。
そんな時、医療・看護の従事者も福祉の関係者も「無理しないで、休み休みやりましょうね」と言います。
私も問われると「休みながら、ぼちぼちいきましょう」とお話しすることが多いのです。経験的にもこの回答は、そんなに外れていないはずですが、それならば肝心の「休む」のはどういうことなのだろうかと言われると考え込んでしまいます。
それぞれの知恵を集めてみましょうか。ハーモニーのメンバーたちにとって、休んだほうがいい事態とはどういう場合なのだろうか?そして、それぞれはどんな「休み方」をしているのだろうか。それをまとめて「ハーモニー流養生訓」にならないかな。
今回はそんなテーマで話してみました。6回ほどの座談会を開き、記録したものから抜粋しました。
それではまず「それぞれの休まなくっちゃと思う時と休み方」について聞いてみましょう。
仕事に疲れたとき
「聞かせてください。どんな時に疲れたと感じますか。そして休むことについて教えてください」
「そうですねえ。前の作業所の頃は、清掃のアルバイトが毎日あったから疲れたなあ。身体が特に疲れたな。私はあまり弱音を吐かない方だから、疲れをためちゃったかもしれない」
「週に2回、ヘルパーの仕事に行っていますが、遅い日は夜7時ごろに帰ってきます。確かに賃金を貰って働くのは緊張するしやりがいもあるけれど終わったら疲れも感じますね」
「なるほど。ハーモニーにはパートのような形で働いている人が数人いますね。大仏くんどうですか」
「僕は企業で雑務とか入力作業をやってます。ハーモニーには仕事が休みの時に時々、来ています。眠れないと疲れるなあ。仕事、そうだ!仕事が一番疲れる」
「仕事に疲れた時、効果のある休み方には、どんなものがありましたか」
「お風呂に入ったり、睡眠をとることかなあ」
「僕も家帰って風呂入って、オフクロの作った飯食って一息って感じです。友達からの電話はうれしいけれど、一息つきたいときに呼び出し音が鳴るとちょっとね。早めに切り上げてもらうようにしています。そして横になって休むようにしていますよ。それでもダメならば頓服の薬を飲んで寝ちゃう」
「やっぱり、風呂と飯は王道ですね」
「僕の場合は、コーラが一番。朝は元気なんだけど、午後の2~3時になると電池切れになって、心も体も動かなくなるんですよ。電池が切れそうなると『もうすぐコーラが飲める!』って思うんですよ。あの快感を思い出すんですよ」
「楽しい事や好物を思い出すんだ! そういえば、大仏さんには特技がありましたね。職場のトイレに籠るの(笑)」
「ちょっと前までは休み時間にはトイレに籠って気分転換していたんですが、職場ですっかりマークされていて『あいつに3分以上トイレに入らせるな』って指令がでているようなんです。あんまり長いとトントンってされます!」
「そりゃたいへんだ。ほかにも大仏くんは休憩時間に人と話したりして発散する特技があるじゃない?」
「だめだめ。あんまり喋ると怒られる。人間関係は大変だよ。僕は仕事が出来ないから、いつも注意されてるんだよ。何か注意されると、その人が嫌いになる」
「へえ~。みんなに好かれる大仏くんでもそんなことがあるんだ?」
「でも、お菓子を貰うと、すぐその人のことが好きになる。へへへ(笑)」
「なんだそれ(笑)」
人間関係や家族で疲れたとき
「それでは、次のグループの人達に聞いてみましょう。大仏くんが職場の人間関係が大変だと言っていたけれど、みなさんはどうです?」
「たしかに人間関係は疲れるよ。僕はよく歩く方だし体力的に疲れることは少ない。むしろ友達グループみたいな集団の中で、ひと同士が足を引っ張りあったり、悪口言ったり、無視したりするのは苦手で、最近もすごく疲れがあった。人と喋るのは大事って言うけれどね」
「悪口言ったり、仲間外れはいやだね。子どもじゃないんだから。疲れた時にトムさんはどうします?」
「僕にとっての休息は、やっぱり『自由な時間』です。寝ていてもいいし、外に出かけて買物してもいいし、時間の制限のないこと。最近、代々木八幡まで行きましたよ。でもお休みは家には居なくて外に行く事が多いな」
「『自由な時間が休息』トムさんの言葉選びのセンスに感服します!仕事もそうだけど、疲れる時って、自分で自分の時間をコントロールできない時が多いですよね。時間の過ごし方を自分で決められるって、大事なことだ」
「職場や友達だけじゃないわよ。実の兄弟姉妹の間でもうまく心が通わないということがあるものね。私は何十年も兄や姉と上手くやっていけなくてそれが気持ちの重荷になっています」
「はい。家族は近い関係にも思えるけれど、気持ちがすれ違うと難しいことになりますね。長年に渡って凝り固まってしまったわだかまりは、すぐには解けたりはしない……」
「ふぅ~人間関係の疲れは基本的には、あきらめて、気分転換するしかないです。テレビのドラマをみます。サスペンスとか刑事ものとかね。それから、目の前に動物たちを思い浮かべて、彼らに声をかけて遊んだりしていますよ」
「気分転換は基本ですね。仲が良くても、家族の様々な出来事は心配のタネにもなります。どうでしょう、こまねずみさん」
「最近亡くなった父が、徐々に弱っていった時に心配のあまり、自分がおかしくなったのが分かりました。心配でおかしくなるといえば、妻が横で寝ている時に、ただ寝てるだけなんですが、眠ったまま意識が戻らなくしまったら、どうしようと考えるだけでやられてしまう(苦笑)」
「これは共感できるな。大事にしている人がいるってそういうことかもしれない」
「あまりに疲れると好きな本すら読めなくてつらい。Twitterというのもタイムラインを追っているだけで時間がつぶれて読んだ気になるが、頭が麻痺したまま読み飛ばしているだけかもしれない」
「Twitterか……僕もやってますが、気分転換に手を伸ばしたはずが、かえって自分を疲労させることって多いですねえ。人生の大先輩である小川さんはどうですか」
「これはちょっと病気の話にも関係あるけど、具合が悪ければ悪いほど、人との関係が上手くいかなくなります。考えが一人で走りはじめて心配がドンドンこうじてしまう。人の悪意に敏感になってしまう。いじわるされてるかなと思うと悪い方に考えちゃうんですよね」
「小川さんは音楽をよく聞いていますよね。ドンドン悪い方に考えちゃうときに聞いてホッとする曲などあります?」
「沢山あるけれど、だいたいポール・マッカートニーの曲です。『Abbey Road(アビイ・ロード)』に始まります。ジョンは怖いですね。ポールのボーカルの『Oh! Darling(オー!ダーリン)』は大事な曲です。僕のお母さんを思い出させる曲です。サイモンとガーファンクルの『Bridge Over Troubled Water(明日に架ける橋)』も母です。なだめてくれます。両方とも僕の20歳の時に出たアルバムでした。お母さんそのものでした」
眠れなくて疲れたとき
「ミチコさんやK2さんはどうですか?」
「休みたいほどの疲労を感じるのは、夜眠れない時ですね。雨の音に重なって人の声の幻聴など聞こえてくると不安が募ります。家族の帰宅が遅くて一人の時など特にね」
「確かに疲労や不眠の時に幻聴が酷くなったり、気になったりする人は多いですね。ミチコさんは、夜眠れなくて不安な時にはどうしてます」
「DVDを観ます。嵐の2020年のライブ。櫻井くんのファンです。あらし、あらし、オーイエイ♪ これで眠れます。
それと私は素麺好きです!イチゴ。これは近くのセブンの農産物コーナーで買うのです。これも食べちゃう。ついでにチョコレートとシュークリーム。これで回復です」
「アイドルとスウィーツ!」
「昨日、なんかわかんないけど眠れなかったなあ。いつもと違うことすると疲れますね」
「何したの?」
「……まあ、それはいいじゃない。確かに眠れないと疲れる。何日間か続くとつらいな。眠れなくてもいいや。いつか眠れるさと思っていますね」
「ミチコさん、Kさん、ありがとうございました! その次は金ちゃんとヒロちゃんです。二人とも働いていた頃は大変でしたね」
「その昔、スーパーマーケットで働いて、休みのない生活を送っていたのだが、その時にはあまり疲れは感じなかったんですよ。働いて働いて気がついたら肝臓に細菌が入る病気になってしまったんです。疲れを感じないというのも問題だったかなあ。
仕事をしなくなって、今では夜、目が冴えてくると、心の置き所(どころ)がない感じで焦燥感を感じる。それが身体への圧迫感という形で現れてくるんです。内臓が押されてる気がします。それが『コロナ禍』以降、強くなっている気がする」
「なるほど。『コロナ鬱』という言葉があるくらいです」
「疲労がたまる時にはカルシウムやタンパク質が良いと言いますね。炭水化物ばかりを食べるとよくないそうなので、お豆腐でも食べてみるかな。実際は毎晩、唐揚げ食べてたんですけど。それから、気持ちが疲れた時は、気の合う人と喋ったりしますね」
「『人薬(ひとぐすり)』、『時薬(ときぐすり)』という言葉もありますものね。理解してくれる人との関わり(人薬)や時の流れ(時薬)によって疲れが癒されることもありそうです」
「僕は幻聴や妄想のような症状はないのですが、TVをみたりスマホでマージャンゲームやったりして寝るのが深夜になって、生活のリズムが崩れる。
夜型になると昼間がしんどい。でも、平日は休めない。そのまま土日に雪崩れ込んで週末は昼間からゴロゴロして動かないと、さらに夜が寝られないと……ああ、悪循環だ」
「めちゃくちゃよくわかる(笑)」
「気持ちが沈んでいる時は家にいると煮詰まるので、外に出て歩道の植え込みのところに座って、ボーっと道行く人を見ます」
「道行く人を見るって誰か言ってたなあ。そうだ。大仏くんだ」
「それから、ストレス解消にやるのも、マージャンゲームなんですよねえ。ゲームで疲れてゲームで解消。そしてまたゲームで疲れる。ああ、これも悪循環かも」
「これもよくわかる(苦笑)」
後編に続く
ハーモニーメンバーそれぞれの休み方、ついつい頷きながら読んでしまいました。前編はここまで。後編は引き続き休み方の話をお届けしつつ、さまざまな「休む」にまつわる提案もお届けするとか、しないとか。(編集部 垣花)
【メール募集】
ハーモニーYoutube配信第2弾「答えにならない喫茶店」開催!
ハーモニーを喫茶店に見立て常連客に扮したハーモニーのメンバーが皆さんから寄せられた「相談」にお答えするイベントです。
ハーモニーのメンバーに相談してみたいことがある方は、7月5日までにお送りください。喫茶店の様子は後日youtubeで配信され、およせいただいた「相談」も取り上げられるかもしれません(すべてをとり上げるのは難しいとも思います。ご容赦ください)
関心をもってくださるかたは、説明サイト内の(重要)をご理解の上、サイトに記載のアドレスまで「相談」をお送りください。
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【ハーモニー新聞部 おたより募集中】
連載の感想や質問、新聞部で扱って欲しいテーマがございましたら以下メールアドレスに「件名:ハーモニー新聞部おたより」としてお送りください。読者のみなさまからのおたよりをお待ちしております。
窓口:harmonysetagaya@gmail.com
Profile
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新澤克憲
就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長
大学院中退後、デイサービスの職員、塾講師、木工修行を経て、共同作業所ハーモニー施設長(1995~2011)就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長(2011~2022)。現在は特定非営利活動法人やっとこ理事長。基本的に人見知り、ひきこもり気質に加え体重増加中のため、あまり動かない。記憶と記録、語りと言葉、そして人びとの居場所について関心がある。休日はパンクバンド「ラブ・エロ・ピース」のノイジーなギタリストとして活動する。2024年4月には、30年の間にハーモニーで出会った人たちとの日々の出来事を記録した『同じ月を見あげて ハーモニーで出会った人々』を道和書院より刊行した。他にも共著書『超・幻聴妄想かるた』(2018年、やっとこ)。写真撮影:田中ハル
この記事の連載Series
連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞
- vol. 212024.10.15それぞれの睡眠事情から生まれた『不夜城サンバ』
- vol. 202024.08.15「笑顔でいるのも無理がある♪」と歌う
- vol. 192024.04.04昔々あるところに幻聴さんが〜幻聴妄想かるたが記録するもの〜(後編)
- vol. 182024.04.04昔々あるところに幻聴さんが〜幻聴妄想かるたが記録するもの〜(前編)
- vol. 172023.11.21ナミビアの若者たちが作ったかるたを、世田谷にいるメンバーが読み解く | 旅するかるた 後編
- vol. 162023.10.10ナミビアの若者たちが作ったかるたを、世田谷にいるメンバーが読み解く | 旅するかるた 前編
- vol. 152023.08.04「アフリカのこと教えてテンちゃん」ボツワナ滞在中のテンギョー・クラ氏とハーモニーメンバーによる対話
- vol. 142023.03.23コロナ禍で変わったこと、変わらないこと、はじめてみたこと(後編)
- vol. 132023.02.01コロナ禍で変わったこと、変わらないこと、はじめてみたこと(前編)
- vol. 122022.12.07ハーモニーの思い出のメロディ 後編
- vol. 112022.11.09ハーモニーの思い出のメロディ 前編
- vol. 102022.07.29あなたはどうやって休んでいますか? ハーモニー流養生訓 後編
- vol. 082022.05.24初恋を巡るモノローグたち
- vol. 072022.03.15それぞれのお墓事情から見えかくれするもの 私のお墓の前で〜♪ 後編
- vol. 062022.02.03それぞれのお墓事情から見えかくれするもの 私のお墓の前で〜♪ 前編
- vol. 052021.12.23老舗の味といつか見た亀 上町よいとこ3
- vol. 042021.11.08植物を育てること、人が集まる場所を育むこと 上町よいとこ2
- vol. 032021.10.06変わらない肉まんの味、店じまいする馴染みの不動産屋さん。上町よいとこ1
- vol. 022021.08.31「いつも」を真ん中に据える
- vol. 012021.07.29創刊のご挨拶