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【写真】りようしつのなかにたつうえはらまさひろさん【写真】りようしつのなかにたつうえはらまさひろさん

上原正裕さん【理容師】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.03

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手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第3回は、熊本県で理容師として働く、「上原理容室」の上原正裕さんを訪ねました。

上原正裕さん【理容師】

―お名前、年齢、ご職業は?

上原正裕といいます。42歳です。理容師として働いています。このお店、「上原理容室」を営んでいます。

―出身地はどこですか。

熊本です。

―今まで通っていた学校はどこですか。

熊本県立熊本ろう学校を卒業しました。幼稚部から専攻科2年までずっと通っていました。

―熊本ろう学校の専攻科で理容師の資格を取得したということですか。

そうですね。理容師の資格を取りたくて、その専攻科に進みました。

―子どものときの夢は何でしたか。

小学生のときはピエロでした。サーカスへ見に行って、そこには必ずピエロがいるんです。自分もああなりたいと思っていました。

中学生になって舞台俳優になりたいと考えるようになりました。中学2年生のときに文化祭があって、舞台に立ったんです。それがきっかけですね。高校時代は手話落語部があって、文化祭で積極的に壇上していました。将来的には日本ろう劇団に入りたいと考えたこともありました。でもそのときはもう理容師としての勉強もしていて、舞台俳優と理容師、どっちを選んだらいいのかと迷っていた時期もあったんです。日本ろう劇団の情報やビデオをいろいろ観ていると、予想以上にレベルが高いということを知り、理容師の道を選びました。

―理容師になることを本格的に決めたのはいつですか。

高校1年生のときです。

―なぜ理容師だったんでしょうか。

ぼくはもともとデスクワークや単調な仕事には向いてなくて。でも理容師の場合は髪型の種類、お客様からのご要望など多種多様でメリハリがあり、工夫をして、楽しみながらやれる。お代もいただけて、嬉しい言葉も貰える。そういう仕事のほうが自分に合っていると思ったからです。

―「上原理容室」のオーナーになるまではどんなかたちで働いてきたんでしょうか。

熊本ろう学校専攻科で理容師の資格を取得して、卒業してすぐに長崎県にあるろう者が働く理容室で2年間ぐらい働きました。20歳から22歳の頃です。それから東京で理容師をしていました。

33歳のとき、熊本へ帰ってきて、このお店で働き始めました。当時は別の人がオーナーをしていました。そこへ勤務していたということになりますね。ぼくが35歳のとき、そのオーナーがこのお店を売りたいという話になり、ぼくが買ったんです。このお店をそのまま譲り受けました。自分の店を持ち、今年で6年目になります。ずっと理容師として働いてきました。

―過去にコンテストで賞をとったことがあると聞きました。

全国理容競技大会に何度か出場したことがあります。そのときは2位になりました。

普段の仕事にない技術やヘアカラー、課題を求められたのでかなり試行錯誤しつつ練習をして挑みました。さまざまなタイプの理容師がいて、お互いいい刺激になったのもいい思い出です。

―5年後の自分はどうなっていると思いますか。

「上原理容室」を開いてから新しく夢ができました。スタッフをもっと増やして、ここをもっと大きくしたい。今はろう者のスタッフが2人います。

そして、理容師という仕事の魅力をもっと広めたい。伝えたい。現在、理容師を目指す若者が少なくなってきています。ろう者だけでなく、聴者も。少しでも、少しでも、理容師になりたいと思ってくれる人を増やしていきたい。その人たちを応援していきたいと強く思っています。学校で資格をとったらどんどんうちに来て、経験を積んでほしい。

理容師をやっててよかった、頑張ればお客様は見てくれるんだ、という喜びを持ってくれたら。この上原理容室はぼくのためではなく、若者たちのための場でありたいです。理容師をやっていて楽しいと思える、自分で目標をつくる、それに向かって始める。そのきっかけとなる場になれば、という気持ちがあります。

ここを開店して6年目、まだまだこれからです。

―熊本ろう学校には今も理容科はあるのでしょうか。

はい、あります。

ぼくは今、非常勤講師として週に2日は熊本ろう学校理容科へ行っています。理容師という国家試験を受けるための実技訓練があり、その指導を担当しています。

―好きな食べ物はなんですか。

焼き肉。この近所だと「彩炉(サイロ)」というお店がおすすめです。

―どんなときが幸せですか。

お客様から「また来るね」と言われたときが最高に幸せですね。「また来るね」「また来るね」ってね。

初めていらしたお客様はほとんど、ぼくが聞こえないということと、筆談で接客をするということに驚かれるんですが、カットした後「また来るね」とおっしゃってくださいます。

その言葉をいただけたとき、今まで頑張ってきたことが実ったと実感します。

インタビュー動画(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道