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【写真】しせつのなかにたつたけうちあやかさん【写真】しせつのなかにたつたけうちあやかさん

竹内あやかさん【福祉施設 所長】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.05

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手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第5回は、鹿児島県で福祉施設の所長として働く、〈NPO法人鹿児島県盲ろう者友の会 いぶき〉の竹内あやかさんを訪ねました。

竹内あやかさん【福祉施設 所長】

【写真】しせつのなかにたつたけうちあやかさん

―お名前、年齢、ご職業は?

竹内あやかといいます。30歳です。〈NPO法人鹿児島県盲ろう者友の会いぶき〉の所長をしています。ここは視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者、いろいろ障害を持った人が仕事をするための就労継続支援B型事業所(※注)です。

※注:「就労継続支援」は会社などで働くことが難しい人が、支援を受けながら仕事をするための福祉サービス。A型は、働く人が事業所と雇用契約を結び、決まった給与(月給または時給)を受け取る。B型は、事業所とは契約を結ばず、作業内容に合わせた工賃という形で支払いを受ける。

―出身地はどこですか。

沖縄県です。

―今まで通っていた学校はどこですか。

沖縄県立沖縄ろう学校の幼稚部へ通っていました。その後はずっと一般校へ。調理専門学校にも行きました。

10年前、大学進学のために鹿児島へ来ました。鹿児島女子短期大学へ入り2年間栄養士の勉強をし資格をとりました。短大には情報保障があり、要約筆記者と一緒に授業を受けていました。

―盲ろう者と関わるきっかけは?

要約筆記派遣所で知り合ったある通訳者から「盲ろう者友の会」のことを聞き、最初はあまり興味がなかったんですが、なんとなく活動を見に行きました。盲ろう者の現状を知り、交流してみたら楽しくて。学ぶことが多く、深く気にかけるようになりました。手話を改めて学ぶようになったもその頃です。手話サークルにも行きました。

盲者、ろう者、盲ろう者にはいろんなタイプがいます。先天性だったり後天性だったり。障害の強弱、視野の幅もさまざまです。知らないことばかりでしたが、少しずつ学びました。通訳者からいろんなことを教えてくださったおかげで、今、利用者さんそれぞれに合わせたコミュニケーションができています。

鹿児島県初の盲ろう者作業所〈いぶき〉は2013年に設立されました。私も設立時から関わっています。作業所の設立のためにお金を借り、仕事をもらう量も今よりは少なかったのですが現在は理解者や仕事の量も少しずつ増えてきて、やっと運営も軌道にのりました。

障害があるがゆえ一人で働けずずっと家にこもっている人が多いです。〈いぶき〉に来てくれたら働けて、お金ももらえて、身体も動かせて、他者との交流もできる。自分らしい生活ができる力を身につけられます。私達は利用者さんからの意見を、聞き働きやすいように支援や改善をし続けています。

―〈いぶき〉にはどんな人が通っていますか?

体調が変わりやすい、重度障害がある、毎日きっちりと通勤できない、長時間勤労ができない、通院がある、でも働きたい。……という人が〈いぶき〉に合っています。日給は1000円。ここは急に休んでも大丈夫なんです。無理強いはしません。利用者さんご自身の判断に任せています。毎日20人は来てくれていますね。その中で盲ろう者は6人ぐらい。スタッフが車で送迎しています。70歳〜90歳の利用者さんが多いです。みなさんは大先輩。いろんなことを経験されているので、日々学ばさせていただいて、私が育てられています。

〈いぶき〉は「就労継続支援B型」の事業所ですが、ほかの就労継続支援A型だと時給800円ぐらい。そちらは一般の会社などに近く、障害があまり重くなく、毎日出勤できるような人が利用されています。

―〈いぶき〉に通う人たちはどんな仕事をされていますか。

八百屋から仕事の依頼を受け、野菜の袋詰め、パック詰めをしています。この仕事は高齢者でも、目が見えなくても、自分のペースでできます。新聞のチラシ折込み作業なども検討しましたが、見えていないと難しかったです。野菜を扱うほうが合っていました。

―〈いぶき〉のような作業所は他にもありますか?

九州では鹿児島県だけです。他県では東京都、兵庫県、大阪府などにあります。

―所長になった経緯を教えてください。

3年間、ここで指導員として働いていたら、前所長から次期所長推薦をいただき、それに応えました。所長になって4年目になります。「友の会の会員であり、理事にもなっている。指導員としての勤務期間も長く、いぶきの現状、利用者さんたちのことをよく知っているから」というのが推薦理由だったようです。やってみないとわからない、と思って引き受けました。

私が所長になってから、盲者の利用者さんは少し減りましたが、盲ろう者は残り増えてきました。わたしが音声、手話などを使うのでそれで安心してくれたのだと思います。

利用者さんに合わせて、コミュニケーション方法を変えています。声、手話、触手話などを使って、スタッフが臨機応変に対応しています。

―所長になってからどんなところを改善しましたか?

盲ろう者からの「明るい、眩しくて見えない」というご要望で、一室は明るさを暗くし、色をオレンジにしました。

また、2021年5月からは利用者さんたちの昼食・お弁当代を無料にしました。利用者さんの日給は一人1000円。そこから昼食代を引いたら手元にあまりお金が残りません。前々からその点で悩んでいて、やっとスタートすることが出来ました。昼食代は国からの助成金から補って、やりくりしています。

各自それぞれがお弁当を買ったりしていると、野菜が少なく、どうしても油っこいものばかりになりがちです。高齢者ばかりで、持病を持っている人も多いので心配していました。みんな一緒に、栄養バランスのいいお弁当を食べる。当たり前のようですが、楽しくて大切なことです。体に良いものや健康なものを食べて長生きし、いつでも元気に働きに来てくれるように。目の前のことだけではなく先のことも見据えています。

昼食代に対しての取り組みですが、他の作業所ではそれぞれ異なります。ここはやはり利用者さんのためにある場所であり、それを大切に考えています。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

利用者さんがもっと増えて、この作業所をもっと拡大することができたらいいなと思っています。あれやこれとやりたいことがいっぱい。頭の中もいっぱいいっぱいで忙しくなっているかな。

最終目標はグループホームをつくることです。10年内に実現したいです。今の利用者さんが高齢者ばかりなので、15年後だと間に合いません。80代なるろう者の利用者さんが居て、やむを得ず健常者の介護施設に入ってしまいます。急いでグループホームを設立したいと考えています。そのために今の運営で黒字を出し続けて、グループホーム開設のために働きかけています。理想は1階が作業所、2階からはグループホームというスタイル。安く良い場所も頑張って探しています。

―好きなたべものは何ですか?

牛肉、焼き肉です。タレにこだわりはないけど、美味しく高いお肉が好きです。一番好きなのはカルビ。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

いっぱい寝たとき。あとは小物作りが趣味で、ミシンなどで作っているときが幸せです。そしてここ、〈いぶき〉で働いているみなさんとコミュニケーションしているときが幸せです。働いている、幸せだな、今日一日も幸せだな、と思います。

インタビュー動画(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道