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郷州征宜さん【キックボクサー】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.07

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手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第7回は、東京都でプロのキックボクサーとして活躍し、現在は会社員として働く、郷州征宜さんを訪ねました。

郷州征宜さん【キックボクサー】

【画像】かわのちかくにたつごうしゅうまさのぶさん

―お名前、年齢、ご職業は?

郷州征宜(ごうしゅうまさのぶ)といいます。35歳です。今は会社員をしています。

―出身地はどこですか。

神奈川県秦野市です。

―今まで通っていた学校はどこですか。

地元の小学校、中学校に通っていて、高校は野球をやるために山梨の東海大学付属甲府高等学校へ入りました。寮生活でした。

―こどものときの夢は何でしたか。

小、中学生のころはプロの野球選手だったかな。高校野球で思っていたような結果を出せなくて諦めました。

―これまでの職歴・経歴は?

高校を卒業したあとは神奈川の会社に1年間勤めて、神奈川障害者職業能力開発校へ1年半通い、今は東京の会社に勤めています。プロのキックボクサーになったのは、2011年。その後、キックボクシングを続けつつ、スポンサー企業でも約3年間務めました。2020年9月からはキックボクシングと一旦距離を置いています。

―キックボクシングをはじめたきっかけは?

高校を卒業したあと、先輩に誘われてジムへ行き始めました。「身体がなまってきたかな。ちょっと鍛えたいな」という軽い気持ちで。そのジムにはK-1の城戸康裕選手がいました。1回ジムをやめたんですけど、その後テレビでK-1日本代表決定トーナメントを見たんです。城戸康裕選手が優勝したのを見て、「かっこいい」と思ったのがきっかけでした。またジムに通いはじめて、それから2年後、本格的にキックボクシングを始めました。23、24歳のときだったと思います。

―K-1出場への経緯は?

2011年のRISE主催アマチュア大会全日本トーナメントで優勝し、MVP(最優秀選手)になりました。MVPになるとプロの試合に出れるんです。そしてプロキックボクサーとしてデビューしました。

でもやっぱり、ぼくはK-1へ出場したかった。2016年、31歳でK-1ジム総本部に移籍して、いくつかの試合に出ました。はじめてのK-1では負けました。2017年にKrushという大会があって、チャンピオンへの挑戦権を得られるトーナメントに出場しました。1回負けたんですけど、敗者復活戦で勝ったので、最終的にチャンピオンと戦うことができ、勝利しました。それでKrush スーパー・フェザー級(-60kg)王者になりました。あっという間でしたね。

―練習量を教えて下さい。

アマチュアの時は週5回・1日3時間ぐらいかな。プロになってからは週6回・1日3時間+ランニング1時間ぐらい。K-1ジムに移籍してからはボクシングやフィジカルトレーニングも通うようになったので、その分1〜2時間増えていました。なので、練習量が多い日は6時間ぐらいですね。

―格闘技から距離を置こうと思った理由は?

思うように結果を出すことができなくなったっていうのもあるし、減量生活は身体に悪くて。たまたま試合の翌日に、会社の健康診断があって、肝機能の数値が平均の10倍だったんです。しばらくしたら元に戻りましたが、減量生活の影響だと思います。

診断結果を聞いて、この生活を10年も続けられないと考えました。引退式の話もありましたが、コロナ等の影響でまだやっていません。

あと、こどもと一緒にいる時間がもっとほしかったから。キックボクシングを再開するかも、と考えたこともあったんですが、去年7月に産まれたこどもを見ていたら未練が無くなりました。そのうちまたやりたくなってくるかもですが……。もしぼくが早死してしまったらこのこどもはどうなるんだろう、と考えるようになりまして。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

なにか新しいことをやりたい。ゴルフも再開したいな。これからもいろんなことをやって、挑戦してみたいことをもう一回見つけられたらいいな。5年後、こどもは5歳かあ。いい子に育ってくれたらいいなあ。

―好きなたべものは何ですか?

ステーキとお寿司。うに、いくら、大トロが好きだなあ。ステーキはレアで、ワサビ醤油。シンプルに塩で食べるのも好き。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

やっぱり、ふつうに、土、日曜日にこどもと遊べるということ。前は土日もずっと練習ばっかりだったし。当たり前のことが幸せ。こどもと遊びにいけるのが幸せです。

インタビュー動画(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道