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【写真】古道具が並ぶ倉庫の中で、妻と猫とともに佇む 西川さとしさん【写真】古道具が並ぶ倉庫の中で、妻と猫とともに佇む 西川さとしさん

西川 敏さん【古物商】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.16

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手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第16回は熊本県熊本市で古物商として働く、西川 敏(にしかわさとし)さんを訪ねました。

西川 敏さん【古物商】

【写真】古道具が並ぶ倉庫の中で、妻と猫とともに佇む 西川さとしさん

―お名前、年齢、ご職業は?

西川 敏です。55歳。職業は古物商。競りなどで手に入れた家具や小物を修繕して、蚤の市やイベントで販売しています。店名は「muraku」。

―出身地はどこですか。

熊本県荒尾市。結婚してからは熊本市で暮らしています。

―今まで通っていた学校はどこですか。

ずっと熊本県立熊本ろう学校に通っていました。高等部では理容科でした。昭和61年度卒業生だったかな。

―こどものときの夢は何でしたか。

映画監督。感動するものを撮ってみたいなと思っていました。苦学生ががんばって働き、なんやかんやあって最後には大きなマイホームを持ち、感動する物語。ははは。昔から映画が好きなんです。

―これまでの職歴、経歴は?

熊本ろう学校を卒業した後は理容室で働いていました。そのあと鹿児島県のSONYで電気技師として働いていました。

今はここ、熊本に拠点を置き、古物商を営んでいます。古物商は今年で19年目。最初はあまり儲けがなかったんです。安定した給料があり、ボーナスももらえる会社員のままでいたほうがよかったかなとしょげることもありましたよ。でも気づいたら古物商を19年も続けられていました。頼れるのはこの自分の腕しかない、と信じ続けて、頑張ってきました。

―古物商ってどんなことをしていますか。

ぼくの場合は、古物市場での競りでアンティーク家具、レトロな道具など古いものを手に入れ、かっこよく修繕して、販売しています。運が良ければ一般住宅の解体現場から古物を譲ってもらえることも。

壊れた家具や小物も任せて! 引き出しがなかったり、ガラスが割れていてもこう、こうして、ちょいちょいとアレンジできますよ!!

完成した商品をたくさん車に積んで、九州のあちこちで開催されている蚤の市で販売します。出店するときのディスプレイもこだわりがあって、商品が映えるように考えています。出店するときは妻に手伝ってもらっています。古物商を始める、というときも支えてくれて、とても頼りになっています。

イベントが無い間はインターネット、ヤフオクで販売していました。売れ行きは意外とよかったけど、梱包がとても大変。やっぱりイベント販売のほうが実際にみてもらえて安心だね。古物ならばでの味わい、傷などを確認してもらえるからね。

―どうやって競りに参加していますか?

参加者は指の形で数字を表し、買い値を伝え合います。親しい古物商仲間が通訳してくれるんですよ。通訳というか、サッとフォローしてくれる。「あれ、いくら?」とぼくが聞くと「1000円。あ、2000円出た。どうする?!3000円いける?」とか。会場には多くて200人以上はいるかな。ほぼ顔見知りで、ぼくがろう者だということはみんな知っています。

―古物商を始めたきっかけは?

昔からコレクターだったんです。映画のパンフレットやポスターを収集していました。いろんなデザインのコカ・コーラのポスターもたくさん集めていて、今も大切に持っています。レトロな物を集めるのが大好き。それが一番のきっかけ。

―木工や修繕の技術はどこで身につけましたか?

すべて独学! 昔から小物を作ったりするのは好きで、たくさん作って作って努力してきただけ。蚤の市へ出店するとき、他店の魅力的な商品をチェックします。おお、あれはかっこいいな、とこっそりメモ。帰って真似してみたり。お客さんからの感想や意見も参考しています。雑誌で今の流行りをチェックすることもあります。

ちょっと前はカラフルでペタペタっとしたデザインが人気で、ペンキをたくさん使って修繕していましたが、今は自然な雰囲気が流行っていますね。例えばこのサビね、完全に落としちゃダメ。洗浄して磨くときにこう、わざと残して、レトロな雰囲気を残します。この古そうな木材やガラスの山は宝。新しい木材などを使って修繕すると、いい雰囲気が崩れる。

―今、人気がある品物は?

地球儀の足場と、ドーム型のガラスを組み合わせたオブジェ。間に置く台は自作です。もうほとんど目視で切って削っています。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

ずーっとこの仕事をしていきたい。10年後も。死ぬまでやっていきたい。そうだ、立派な倉庫を持ちたいですね。がんばらなくっちゃ!

―好きなたべものは何ですか?

おでんと焼酎。焼酎ならもうなんでも大好き。苦手なのは鶏肉と牛乳……小学生のとき、遠足で行った牧場で牛の乳搾りを見て、その生々しさにショックを受けてしまって、それ以来飲めなくなっちゃった。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

馴染みの客、ファンが増えてきて、幸せ!

みなさん、いろんな方法で話しかけてくれます。筆談、ゆっくりと口を動かす、身振り。その様子を見た他のお客さまが真似て、その人なりに話しかけてくれます。なあんだ、ぼくでもできるんだとホッとしましたね。

あと、この猫は古物商をはじめた年にやってきたんです。今年で19歳。共に歩んできてくれました。愛おしい。

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道