福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】室内で木材が積まれ棚の前に立つ、たなかみちおさん。白髪、日に焼けた肌、白い半袖シャツ、ブルージンズ。【写真】室内で木材が積まれ棚の前に立つ、たなかみちおさん。白髪、日に焼けた肌、白い半袖シャツ、ブルージンズ。

田中三千夫さん【木工職人】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.40

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手話を大切なことばとして生きる「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。

(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第40回は鹿児島県沖永良部島(おきのえらぶじま)で木工職人として働く田中 三千夫(たなか・みちお)さんを訪ねました。

田中三千夫さん【木工職人】

【写真】室内で木材が積まれ棚の前に立つ、たなかみちおさん。白髪、日に焼けた肌、白い半袖シャツ、ブルージンズ。

―お名前、年齢、ご職業は?

田中三千夫です。よろしくお願いします。67歳です。今はここ、障害者就労支援施設さねんで木工をしています。

―出身地はどこですか。

ここ、沖永良部島で生まれました。和泊町(わどまりちょう)というところです。

―今まで通っていた学校はどこですか。

兵庫県立神戸聾学校(※)です。小1からずっと。高校を卒業する前にやめて、ここに帰ってきました。

※2007年 兵庫県立神戸聴覚特別支援学校に校名を変更

―こどものときの夢は何でしたか。

夢ね、なかったですね。何も考えていなかったかな。

―これまでの職歴は?

若いころは大工、木工、農業もしていました。父も大工だったんです。一緒にこの島のあちこちで家や家具を作ってきました。ビル建設にも関わったことがあります。得意なのは椅子ですね。今もよく作っています。農業ではサトウキビ、里芋、じゃがいもなどを育てていました。

「じゃがいも」の手話は、手のひらを手刀で縦にとん、横にとん。じゃがいもを4等分するように、表現します。イメージとしては、畑に植えるための種芋です。

―大工、木工の技術はどこで学びましたか?

高校生のときに理容師になるための勉強をしていたのですが、途中で辞めて、父の元で大工をするためにこの島に帰ってきました。

大工や木工の技術は父の手を見て、真似て、独学でやってきました。作っているところを見たり、出来上がっているものをひたすら見て、あれはどうなっているんだろう、こうやるといいのかな、と考え、作り続けるとできるんです。

あるとき、手術をするほどの病気になり、大工を続けられなくなりました。そして平成16年、この施設に通うことにしました。ここでは自分の身体の調子を見つつ、負担のない仕事ができます。

―ここでのコミュニケーションはどうですか?

簡単な手話でやりとりをしています。手話が通じないな、と思ったときは声も出すことも。長い付き合いになりますので通じます。役場には手話ができる職員がいますよ。

―どのような働き方をしていますか?

製作したものをここのスタッフがイベントなどで販売しています。それを見た人がここへ直接注文しにくることも。椅子、可動式折りたたみベンチ、ハンガーラック、本棚、テーブルなど。なんでも作ります。

―沖永良部島に他のろう者はいますか?

すごい高齢になっていますが、4、5人ぐらいいます。あれ、7人だっけ。病気になったりと、あまり会えなくなっていますが……。

奄美大島にもろう者がいるので、遊びに行ったりきたり、ビデオチャットを使って手話でおしゃべりしたりしています。手話でおしゃべりできるっていいもんですね。

― 5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

5年後って? ふっふっ、なんだろうね。ずっと沖永良部島にいますよ。

―好きなたべものは何ですか?

ラーメン、そうめんが好きです。自分で作れるし。ワコーっていうスーパーのお弁当もおすすめ。スパゲティも好きです。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

おっと、なんだろう。友達もいて、楽しいしね。手話を教えているんだけど、けっこう上達してきたひともいて嬉しいです。そのひとは飲食店をやっていて、ランチが美味しい。よかったら今日一緒に行きましょう。

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道