福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】お店の前で中村水産の前掛けをかけて立っているチアキさん。日に焼けた肌でショートカット、前髪にはメッシュ、鮮やかなピンク色のバスケットユニフォームと黄緑色のビーチサンダルを履いている【写真】お店の前で中村水産の前掛けをかけて立っているチアキさん。日に焼けた肌でショートカット、前髪にはメッシュ、鮮やかなピンク色のバスケットユニフォームと黄緑色のビーチサンダルを履いている

チアキさん【居酒屋店長】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.33

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手話を大切なことばとして生きる「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。

(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第33回は沖縄県座間味島で居酒屋店長として働く、チアキさんを訪ねました。

チアキさん【居酒屋店長】

【写真】お店の前で中村水産の前掛けをかけて立っているチアキさん。日に焼けた肌でショートカット、前髪にはメッシュ、鮮やかなピンク色のバスケットユニフォームと黄緑色のビーチサンダルを履いている

―お名前、ご職業は?

チアキです。居酒屋の店長をしています。

 

―出身地はどこですか。

広島県です。

 

―今まで通っていた学校はどこですか。

中学校までは広島県立広島ろう学校(※1)へ。高校は尾道ろう学校(※2)に通っていました。高校卒業後は東京都小平市にある東京障害者職業能力開発校へ行きました。

※平成19年に「広島県立広島南特別支援学校」に改称
※平成19年に「広島県立尾道特別支援学校」に改称

 

―こどものときの夢は何でしたか。

小学、中学、高校……特になかったです。こどものときは周りが聞こえる大人ばかりだったので、聞こえない人はどんな仕事ができるの?? と思っていました。中学高校のときは、先輩の就職先がほとんど自動車や電気関連の会社だったんです。僕はそれに興味がなかったので、どうなるんだろう?? と思っていました。

 

―これまでの職歴は?

印刷会社、トラックの運転手や、飲食業などなど。座間味島へ来る前までは、NHKで手話翻訳の仕事をしていました。座間味島の海に惹かれて、移住してきました。海のそばで働きたかったんです。

今はここ、居酒屋「中村水産」で店長を務めています。

 

―どんな流れで居酒屋店長に?

前々から座間味島が好きで、何度も来ていました。これまで見て来た海の中で一番透明で、美しくて。ここで働きながら住めたらいいなと思いながら、SNSを見ていたら、この店のアカウントで「飲食店スタッフ募集」が出ていたんです。チャンスだ! とすぐにDMを送り、面接して、受かりました。面接のときにオーナーが「聞こえないことは全然問題ない、大丈夫」と言ってくれました。

 

―仕事の内容は?

居酒屋の仕事は全部やっています。接客、調理、掃除など。食事のメニューはオーナーが決めていて、そのとおりに作って提供しています。

オーナーが魚にこだわりをすごく持っていて、魚の仕入れやざっくりと捌くのはオーナーがやっています。

この店は民宿や海遊びのツアーもやっています。他にスタッフもいて、お互いに担当を決めていますが、忙しいときは助け合っています。

ツアーにろう者の参加者がいるときは僕もサポートとして同行しています。

 

―調理学校には?

行ったことはありません。昔、鉄板焼きのお店で働いていたぐらいですね。ここでもゼロから学び、覚えていきました。

 

―この仕事で工夫していることは?

まず、「僕は聞こえない」ことをお客さんに伝えるのを大切にしています。声は使っていなくて、ほとんど身振りや、手話でコミュニケーションをとっています。そしたら手話を覚えて来てくれるお客さんが増えてきました。うれしいです。

スタッフたちも積極的に手話を覚えたり、口を大きくゆっくり開けながら喋ります。最初に声ではなく、手話で話しかけていたのが良かったんですね。

「手話を覚えたい人が何人かいるんだって」という要望をもらい、今は毎週火曜に座間味手話教室を開催しています。小学生もいて、いつも5〜8人の島人が集まります。多いときは10人も。

 

―今の仕事や暮らしはどうですか?

今の仕事は天職だと思っています。しっくりするんです。今まで働いていたところではいつも自分を押さえ込んで、我慢し続けていました。なりたい自分になりたい、とずっと思い続けていました。

時間があれば海へ行き、シュノーケルで潜りまくっています。最高です。

やってみなければわからない。来てみて、失敗したら戻ればいい。失敗は恥ずかしくない。他人に何言われたってどうでもいい。その人には結局関係ないから大丈夫。

本心をおさえてまでして、楽しくもない仕事を頑張り続けなくてもいいんです。自分を楽しくすることができる仕事や何かを見つけて、なりたい自分になりましょう。

 

― 5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

わかりません。そのときの「なりたい自分」を大切にして、やりたいことをやっていきたいです。5年後も自由人として、まだ座間味島にいられたらうれしい。

 

―好きなたべものは何ですか?

ラーメンです。魚系、豚骨醤油ラーメン。あっ! 味噌ラーメンも。チャーシューは厚く、しっとりとしていて、味が濃いのが好きです。

 

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

海が目の前にある。それだけで幸せです。

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道