福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】あきもとかあいさん【写真】あきもとかあいさん

大切な人の変化に戸惑ったとき、どうすれば? 株式会社Blanket 秋本可愛さんをたずねて こここインタビュー vol.28

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たとえば最近、もの忘れが増えたとか、買い物に出かけるのがしんどそうだとか、以前よりも怒りっぽくなったとか。今まで当たり前にできたことが少しずつ難しくなっているように見える。

年を重ねていくなかで、そうした瞬間は誰にでも訪れうるものだと、頭ではわかっているつもりだ。とはいえ、家族やパートナー、友人など、自分にとって大切な人の変化にいざ直面すると、どうしても心がざわめいてしまう。

大切な人の変化に戸惑ったとき、自分はいったいどう向き合っていけばいいのだろう? そして誰を、どんなタイミングで頼ればいいのだろう?

そのヒントを知りたくて、私たちは秋本可愛(あきもと・かあい)さんのもとを訪ねた。

秋本さんは、学生時代にデイサービスでアルバイトをはじめ、介護業務全般を経験。そのときに抱いた課題意識から株式会社Blanketを立ち上げ、介護・福祉の人事支援事業やコミュニティを展開してきた。実は自身も、家族の突然の変化に戸惑いを感じた経験があるという。

「介護は家族だけが担うものではない」という視点を持つ秋本さんと一緒に、大切な人の変化の入口から介護に至るまで、どう向き合ったらいいのかを考えてみたい。

父の変化に大きな戸惑いを感じた過去

たぶん、悩みながら話していくと思います。

取材の冒頭で今回のテーマを伝えたとき、秋本さんがこぼしたその一言に、むしろ安心感を覚えた。専門家へのインタビューという形はとりつつも、誰もが直面することとして一緒に悩み、考えたいと思っていたからだ。

それから秋本さんは、「この問いをもらったときに思い出したことがあるんです」と、自身が経験した“大切な人の変化への戸惑い”について話し始めた。

秋本可愛さん(以下、秋本):私が大学生のときに、父が病気になったんです。働くことが難しくなり、家族の関係性も変わって。私自身はすでに実家から東京に出ていたので、そのことを2年ほど経ってから知りました。

私に心配をかけたくないからと、実家に帰省するタイミングでは、両親ともに今までと変わらず元気に振る舞ってくれていたんですよね。母からのちのち知らされたときは、とにかく悲しくて、パニックになって、どう受け止めたらいいのかわかりませんでした。

【写真】インタビューに答えるあきもとさん

自分のなかに、これまでバリバリと仕事をしてきた父親像があったからこそ、その突然の変化に大きな動揺を感じてしまったという秋本さん。一番身近でサポートしてきたお母さんにも疲れが見え、「自分が地元に帰ることになるのかもしれない」という考えも、頭をよぎった。

しかし、両親は秋本さんの夢やキャリアを考え、地元に帰ってくることを望まなかった。

自分に何ができるのかわからず、これからへの漠然とした不安や無力感に襲われる日々。その後、お父さんは回復したが、当時の向き合い方については後悔もあるという。

その頃の自分を、秋本さんはこう振り返る。

秋本:やはり、当時は知識がなかったので、必要以上に重く受け止めすぎてしまったんですよね。親の年齢的にも、まだまだ介護なんて先のことだと思っていたし、これから家族はどうなってしまうんだろうという不安でいっぱいでした。

そんな気持ちも相まって、私は当時の父に対して「もとに戻ってほしい」、「元気になってほしい」というコミュニケーションをとってしまっていたなあと。たとえば、前向きになれそうな本を渡してしまうとか。もちろん、そのときは真剣に考えた上での行動だったけれど、まずは、その状態の父をただただ受け止めてあげられたらよかったんだろうなと思います。

大切な人だからこそ、その変化に戸惑う。ありのまま受け止めることに難しさを感じたり、元気になることを期待してしまったりもする。それは、どうしたって仕方のないことかもしれない。

戸惑うこと自体は悪いことではないとしつつも、秋本さんはこう続けた。

秋本:たぶん両親も、自分たちだけでどうにかしなければいけないと思っていたし、私自身も地元に帰るとか、極端な選択肢しか考えられなくなっていたんですよね。家族の問題だからと、家族だけで抱え込みすぎていた。もし今の私だったら、真っ先に専門職を頼って、どういうサポートの選択肢があるのかを聞いていたと思います。

【写真】インタビューに答えるあきもとさん

あくまで互いの生活をベースに、できる範囲で

「介護は、家族が担うべき」
「子が親の介護をしないことは、親不孝だ」
「自分のことは、自分でなんとかしないと」

こうした価値観は、今も根強く残っている。身内の問題だからと、第三者を頼ることに、少なからず罪悪感を抱く人もいるかもしれない。

それに対して秋本さんは、「自分たちだけではどうにもできない、というマインドでいた方がいい」ときっぱりと言い切る。

秋本:大切な人の介護をするために、自分の何かを犠牲にした結果、今まで築いてきた関係性が悪い方に変わってしまうケースはよくあります。自分で選択したつもりでも、精神的にも肉体的にも疲弊していくなかで、相手に当たってしまったりとか。

介護される側にとっても、お世話されるばかりで何も役に立てていないと感じると、どんどん生きがいを失ってしまう。「支援する/される」という関係にとどまると、どうしてもお互いに苦しくなってしまうんですよね。

もちろん、大切な人のために頑張りたいと思う人の気持ちは、否定すべきではない。でも、相手にも自分にも生活があり、人生において大切にしたいことがあるということも、忘れてはならない。

だからこそ、基本的には介護の専門家である介護職を頼りつつ、“自分の生活をベースにしながらできる範囲で関わっていく”というスタンスが大事だと、秋本さんは話す。

自分で背負いすぎないためにまずは知っておきたいのが、「介護保険制度」だ。制度を活用することで介護が必要になった際に、納めた介護保険料や税金をもとに原則1割で介護サービスを受けることができる(自己負担の割合は収入に応じて1割~3割に変動)。たとえば自宅にホームヘルパーが来て食事、掃除、排せつ、入浴の介助などをしてくれる「訪問介護」や、日帰りで施設に通い入浴、食事等の支援、心身機能の機能訓練などを行える「通所介護(デイサービス)」、必要な福祉用具をレンタルできる「福祉用具貸与」などがある。

介護保険サービスの利用は、家族の負担が減るだけでなく、本人にとってもプラスな面がたくさんあるという。

秋本:「介護」というと、入浴や食事の介助といったイメージが強いと思いますが、介護とは本来、“暮らしを支える”こと。

身体的なケアはもちろんですが、その方がどう生きてきて、何が好きで、どんなことに幸せを感じるのか、といったことまで知っていきながら、これからの暮らしをより心地良いものにしていくサポートをするのが介護職の仕事です。

そこまで自分のことを考えて、伴走してくれる存在が家族以外にもいると思うと、すごく心強く感じませんか?

【写真】身振り手振りを交えながらインタビューに答えているあきもとさん

あらゆる角度から利用者を知るプロセスを経て、その人にとって最適なケアやサポートをしていく。ただ身の回りのお世話をするだけでなく、逆に得意なことやできることはやってもらったり、楽しめそうなことを考えて外に出る機会をつくったりと、本人の生きがいにつながるようなことも提案してくれるのだそう。

もちろん、世の中すべての介護職がそうだとは言い切れないかもしれないけれど、率直に、「そこまで考えてもらえるのか……!」と驚いた。

「“暮らしを支える”存在だということを知ってもらうだけでも、介護職のイメージが変わると思うんですよね」と秋本さん。彼女もまた、実際の介護現場で働く人々の様子を目の当たりにしたとき、「こんなにも真摯に他人のことを考えられるのか」と衝撃を受けたという。

話を聞いて、介護職という存在のことをあまり知らなかったことに気づく。と同時に、それだったら介護職の方々を積極的に頼りたいかも……と思えたことは、けっこう大きな希望だ。なんなら、いずれやってくる自分自身の老後にも光が差したような気がする。

さらに、介護を自分と大切な人の関係の外にひらくことによって繋がりが増えることも、重要なポイントだそう。

秋本:介護を身内だけに閉じれば閉じるほど、関わるコミュニティが限定され、孤立につながってしまうこともあります。それは本人だけでなく、介護する側も同じです。さまざまな人と関わって、複数の自分の顔が持てている状態をつくることが、双方が健やかに過ごしていく上ですごく大事なことだと思います。

いざ変化に気づいたら?頼り先や覚えておきたいこと

では、大切な人の変化に気づいてから、そうした介護保険サービスを利用するまでに、具体的にどのようなステップを踏んでいけばいいのか。

そもそも、どんな変化が見られたら、介護を視野にいれるべきなのかも、正直よくわからない。問い合わせるのは、役所の福祉課でいいのだろうか。行っても「自分で調べてください」と言われてしまったらどうしよう……。

よくよく考えたら、あまりにわかっていないことが多すぎる。そんな不安も、素直にまるっと秋本さんに伝えてみた。

秋本:まずは、本人が自力で生活していくことに不安を感じ始めたタイミングで、一度「地域包括支援センター」に相談してみると良いと思います。たとえば、もの忘れが増えて外出が不安とか、お風呂にひとりで入るのが難しくなったとか。

相談したい内容が、上手くまとまっていなくても大丈夫。専門の知識を持った職員さんが、そのときの状況に合った制度やサービスを紹介してくれます。

地域包括支援センターは、福祉、介護、医療、健康などの面から、高齢者を支援する総合相談窓口。各市区町村に設置されていて、無料で相談できる。(もし、大切な人と離れて暮らしている場合は、相手が住んでいるエリアの地域包括支援センターに問い合わせるといいそう)。

いざというときの頼り先として、まずはこの窓口の存在を知っておくだけでも、ひとつの安心材料になりそうだ。

秋本:その上で、一度「要介護認定」を申請できたら理想的だなと。そもそも、介護保険サービスを利用するには、事前にこの認定を受ける必要があるんです。これは、必ず覚えておいてほしいことですね。

要介護認定とは、その人がどの程度の介護を必要とする状態なのか、目安になる指標のこと。この認定が決まれば、先述した「介護保険制度」を使って、原則1割負担で介護保険サービスを利用できるようになる。

申請は、市区町村の窓口から(地域包括支援センターなどで手続きを代行している場合もある)。地域包括支援センターの職員から、「認定を受けられそうなので申請してみませんか?」と勧められるケースもあるそう。

認定までには約1か月〜1か月半ほどかかると言われていて、申請すればすぐに介護サービスを利用できるわけではないというのも、覚えておきたいポイントだ。

要介護の認定後、区分に応じて受けられるサービスの範囲などが決まっていく。どのサービスを選べばいいのか迷ってしまいそうだが、ここでもきちんとサポートしてくれる心強い専門家がいる。

秋本:認定を受けたあとは、担当のケアマネジャー(介護支援専門員)さんと相談しながら、要介護度に応じて利用するサービスを決めていきます。基本的にケアマネジャーさんに聞かれたことに答えていけば、ケアプランを作成してくれますよ。ただ、お互い人間なので相性の良し悪しはどうしてもあるもの。もし担当の方が合わなければ、地域包括センターに連絡して変更することもできます。

小さな困りごとを気軽に話せる関係性をつくっておく

要介護認定の申請ひとつとっても、ひとりですべてを調べあげて、最初から最後まで完璧にやろうとするのは、なかなかハードルが高いことだとあらためて思う。

「介護には時間がかかるし、その道のりは思っている以上に長い」。以前、別のインタビューで秋本さんはそう言っていた。たとえ最初は順調だったとしても、どれだけ続くかわからない道のりをずっとひとりで担い続けるのは、現実的に考えて難しい。

だからこそひとりで抱えず、周りを頼っていい。いざとなれば、サポートしてくれる専門家たちがいる。その事実を心にたずさえておけば、介護に対する漠然とした不安はだいぶ軽くなるような気がする。

そうした必要なサービスに辿り着くためにも、変化が起こる前から、本人とコミュニケーションをとっておくことがとても重要だと、秋本さんは言う。

秋本:お金の備えと健康状況、そして介護が必要になったらどうしたいのかという希望は、本人に確認しておいた方がいいと思います。あとは、かかりつけの病院を聞いておくのも、要介護認定の申請など、何かのタイミングで役立つかもしれません。

とはいっても、いきなり膝を突き合わせて対話するのはなかなか難しいから、普段から小さな困りごとを気軽に話してもらえるような関係性をつくっておくのが、意外と大事なのかなって。日々の何気ない会話のなかで、ちょっとずつ介護の話題を出して、その都度話していけばいいんじゃないかと思います。

【写真】インタビューに答えるあきもとさん

人の気持ちは、環境や状況によっても変わりゆくもの。一度しっかり話していたとしても、「あのときこう言っていたから」と勝手に進めてしまうことは、今の本人の気持ちを無視してしまうことにもなりかねない。

だからこそ、何でもない日から少しずつ会話をし、情報をアップデートしていくことが大切だ。そう考えると、話し終えることなんていつまでたってもないのかもしれない。

“大切な人のことをもっと知れる時間”と捉えてみる

大切な人が生きていてくれる限り、変化に直面することは、一度や二度ではないかもしれない。そのたびに、戸惑ったり、ときには強い怒りや悲しみを覚えてしまうことも、きっとある。

たとえば、本人の認知症の症状が進行すれば、つらい言葉を投げかけられるとか、顔を思い出してもらえないといった瞬間に直面することもある。それは、認知症の症状によるものだとわかっていても、心はざわざわしてしまうかもしれない。

でも、そのとき胸に抱いた感情は無理に否定しなくていいと、秋本さんは言う。

秋本:イライラするときはするし、そういうものだよねって思うんです。認知症にまつわる知識を多少なりとも知っていて、普段は「受容が大事、否定はしない」と言っている私でも、もし父や母が認知症になって、何度も同じことを聞いてきたら、「わああ!」ってなっちゃいそうだし(笑)。

ただ、それが何度も重なると誰だってしんどくなるし、無理をし続けたら大切な人を嫌いになってしまうかもしれないですよね。だから、もし爆発しそうな瞬間が来たら、頑張りすぎているサインだと思った方がいい。自分の時間をつくってやりたいことをするとか、第三者をもっと頼るとか。そういう選択肢を、自分の中にいくつか持っておけるといいのかなと思います。

大切な人の変化に向き合い続けることは、体力の面でも、気持ちの面でも、決して簡単ではない。でも、捉え方次第では人生において大事な経験になることも、秋本さんは最後に教えてくれた。

秋本:介護を通して知る相手のことって、実はたくさんあると思うんです。たとえば、離れて暮らしている親子で、お互いにバリバリ働いていたら、会えるのは年に2~3回だったりもするじゃないですか。私自身、大切な人とコミュニケーションをとるべきだと言いながら、よく考えたら親が今までやってきたこととか、何が好きなのかとか、どう残りの人生を過ごしたいかとか、親のことをまだまだ全然知らないんですよね。

いざ介護が始まると、単純に関わる時間も増えるし、第三者に頼りながらだったら、少し余裕を持って本人と会話をする時間が持てるようになる。大変だと思われがちな介護ですが、“大切な人のことをもっと知れる時間”だと捉えられると、ちょっと面白くなるのかなと思っています。

「私も、きちんと両親に話を聞かないと」と秋本さん。今まさに、両親それぞれと少しずつ話しているところらしい。

インタビューを通して、大切な人の変化やその後の向き合い方に、必要以上に気負いすぎていた自分に気づかされた。誰だって完璧にできるわけじゃないし、完璧にやろうと思わなくていい。まだまだ不安が完全になくなったわけでないけれど、そう思えたのはひとつの救いかもしれない。

まずは他者を頼ることに対する罪悪感を、手放すことから始めたい。ひとりだけで抱えず、積極的に外に開いていく。それが、大切な人を大切にしながら、ともに生きていくための術だから。


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