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働くことも、映画祭も「みんなが心地よい」を目指して。GOOD NEWSとTHEATRE for ALLのインクルーシブな場づくり こここインタビュー vol.13

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2022年11月5日〜7日の3日間、木の葉が色づく栃木県・那須高原で、ある映画祭が開催された。バリアフリー動画配信サービス「THEATRE for ALL(シアターフォーオール)」の活動から始まった、「まるっとみんなで映画祭」のリアル上映会だ。

初日の会場となったのは、7月にオープンしたばかりの複合施設、GOOD NEWS。​​森や小川などの自然が溢れる敷地のなか、カフェやギャラリーが集まる一角にスクリーンが張られ、野外上映会が開かれた。

サステナブルな取り組みを進めるショップなどが集まる、GOOD NEWS NEIGHBORS。道路から一段低い建物の裏手に、11月5日に上映会場となった広場と森が広がっている

施設を運営している〈株式会社GOOD NEWS〉は、人気のお菓子「バターのいとこ」をはじめ、ドーナツやカレーパンなどの製造や販売も行う会社。その取り組みには、障害のある人たちの就労支援事業という側面もあり、“大きな食卓”というビジョンのもとで、「観光・農業・福祉」を掛け合わせたまちづくりに取り組んでいる。

今回、商品の製造を担うGOOD NEWS FACTORYでサービス管理責任者を務める小宅泰恵さんと、「まるっとみんなで映画祭」を主催するTHEATRE for ALLの統括ディレクター・金森香さんが対談。就労支援と劇場での体験づくりという、異なる環境で活動するお二人が、多様な人々が同じ空間を共有することについて言葉を交えた。

障害がある人もない人も、子どもも大人も、みんながまるっと楽しめる「インクルーシブな場づくり」を、それぞれの実践から考えていく。

共生を感じる「まるっとみんなで映画祭 2022 in NASU」初日

“クシャクシャ” “ビリッ” “シャーシャー”

会場に響いたのは、子どもたちが紙で奏でる音だった。配られた色とりどりの紙を持ち、マイクの前で代わる代わる紙を動かす子どもたち。破る、たたく、ちぎる、揺らす、振る、丸める、引っ張る–––。その度に、会場はさまざまな音で溢れ、「たった1枚の紙だけで、こんなにもいろんな表現ができるんだ」と驚かされる。

スクリーンに映された映像と音がリンクする様子を、他の観客たちも楽しそうに見ていたのが印象的だった。

「まるっとみんなで映画祭 2022 in NASU」の初日は、さまざまな年代や背景の方々が楽しめる作品を取り揃えたフレンドリー上映会だ。「夕暮れ森のシアター」と名付けられたとおり、だんだんと陽が落ちて暗くなるのを感じながら、4つの映像作品が楽しめる空間となっていた。

冒頭に記したのは、最初に上映された『PAPER?/かみ?』での様子。音楽家・蓮沼執太さんと映像作家・水尻自子さんが、福祉施設の方々と協働して創作した最新作だ。言葉のないアニメーションのなかで紙がひらひらと動き、映像と同期して流れる音楽に合わせて子どもたちが紙でセッションする、参加型の映像作品の可能性を表現している。

他にも、英語字幕付きの人形アニメーション『眠れない夜の月』(八代健志)、字幕と手話(いずれも日本語)付きのタイ語アニメーション『hesheit』(ウィスット・ポンニミット)、言葉を使わないで物語が進む『Fruits of Clouds』(カテジナ・カルハーンコヴァー)の作品が次々とスクリーンに映し出された。

さまざまな参加者の特性を想定し、車椅子で乗り入れやすい席、ボランティアによる音声ガイドなども用意されていた上映会。子どもたちが走り回れるスペース、ハンモック、寝転んでも鑑賞できるレジャーシートなどもあり、参加者はそれぞれ居心地の良い方法で映画を楽しんだ。

上映会の翌朝、同じGOOD NEWS NEIGHBORSで行われた対談は、映画祭を率いる金森さんに、改めて主催者としての想いを語ってもらうところから始まった。

金森 初めてこの場所を見たときに、森の樹木の合間にスクリーンが見える情景が作れたら素敵だな、と思っていたんです。最初の、紙をビリビリ破いて映像とセッションする作品上映は、私たちも初めての試みでしたが、子どもも大人もみんなで一緒にできて嬉しかったですね。

「まるっとみんなで映画祭」を主催する、THEATRE for ALL統括ディレクターの金森香さん。〈株式会社precog〉執行役員

片や、小学生のお子さん2人と共にフレンドリー上映会に参加した小宅さん。金森さんの話を受け、当日の9歳と7歳のお子さんの反応を思い返しながら感想を伝えてくれた。

小宅 うちの子たちも、紙を持って何度もマイクの前に行っていて、すごく楽しそうでした。あと言葉のない作品には、それぞれが勝手に「おなかすいたな」「あ、食べ物だ!」とかアテレコもしていたんですよ(笑)。言葉はなくても、子どもたちのなかでちゃんと物語ができていたんですね。親としては、それを傍で聞くのも楽しくて。

普通の映画館だと、どうしても「動いちゃダメ」とか「しー!」とか言っちゃうんです。けれど、前もって「声を出したり歩いたりしてもいい」と伝えてもらえたので、子どもの想像力をかき消さずに映画を観せてあげられたのかなと思っています。

金森 小さなお子さんが楽しめる環境、障害のある方々への対応などを、チームで考えながら準備してきました。スタッフみんなでそれを考えるプロセスも、すごく大事だったなと思っています。しかし、アテレコというか、音声ガイドを子どもたちが考えてくれるなんて想像もしてなかったです! いろんな楽しみ方を見つけてもらえたみたいで、ありがたいですね。次回のワークショップの参考にもしたいです。

さらに、高原の野外上映ならではの「寒さ」の話へ。例年よりも低い気温のなか、会場ではブランケットの貸し出し、クラムチャウダーやホットチョコレートなどの販売も行われ、それぞれが暖を取りながらの鑑賞となった。運営として「どうすれば快適な環境を作れるか悩んだ」と語った金森さんに対して、参加者の小宅さんからは少し違う捉え方も。

小宅 寒かったですけど、それを感じることができるのは自然の醍醐味でもありますよね。子どもたちは寒さのなかでのスープのおいしさを感じたり、「こうすれば暖かくなるんじゃない?」「こたつはどう?」と言い合ったりして、私は興味深かったです。それから、風でスクリーンが揺れて映像が歪むのも、観ていておもしろかったみたい。自然と隣り合わせの体験は、GOOD NEWSが大きなテーマとして掲げている「森との共生」ともつながっていて、とてもよかったと思います。

一枚ずつ色の違う落ち葉の上を歩くと、サクサクと音がした。暗くなるにつれ寒さが増し、光が少なくなるのと対照的に、投影される作品はよく見えるようになっていた。スクリーンを揺らす風、ハンモックから見える空と月。自然を感じながらの野外上映会を、施設の一員である小宅さんも子どもたちと一緒に楽しめたようだった。

「働く」はみんな一緒のはずだから

那須高原を拠点とする〈GOOD NEWS〉 は、“食”をテーマにさまざまな事業を営んでいる。小宅さんらが担うのは、バターを作ったあとに安価で取引されてしまう無脂肪乳が主原料の「バターのいとこ」や、牛乳からチーズを作る際に大量に生まれるホエイを廃棄することなくおいしく活用した「ブラウンチーズブラザー」など、持続可能な未来につながるものづくりだ。

東京・代々木八幡の人気レストラン「PATH」のオーナーシェフ、後藤裕一氏監修のもと作られた「バターのいとこ」。フランスの地方菓子「ゴーフレット」をベースに、無脂肪乳のミルクジャムを挟んでいる(提供写真)

これらのお菓子は、GOOD NEWS NEIGHBORSのすぐ隣に構えた工場、GOOD NEWS FACTORYで作られている商品だ。製造の一部に就労支援施設としての顔があり、身体障害・精神障害の障害者手帳・療育手帳を持っている方や診断書のある方が、それらを持たない人たちと一緒に働いている。

工場のサービス管理責任者を務める小宅さんは、そうした特性のある方々の受け入れを担当する。

GOOD NEWS FACTORYで、サービス管理責任者を務める小宅泰恵さん。〈株式会社GOOD NEWS〉の関連会社、〈株式会社バターのいとこ〉に所属

小宅 うちの工場では製造工程をかなり細分化して、本人の得意分野を探して担当してもらっています。いろいろな作業を試しにやってもらい、その人の能力をどうすれば一番引き出せるか一緒に考えるのが、私の大きな役割です。誰がいつ参加しても働ける環境を整えながらも、レシピどおりのクオリティで商品を大量生産するところに、やりがいと難しさを感じていますね。

金森さんは、以前に自分も工場内を見学させてもらったときのことを振り返り、「実はとても衝撃を受けていた」と教えてくれた。

金森 全員が“フル稼働”だったんです。「障害のある方とない方が一緒に働いている」と聞くと、つい片方が配慮してサポートする姿を想像しがちなのですが、ここでは良い意味で、誰もがお菓子を作るために忙しそうに働いていて。その状態を実現させるのって、決して簡単ではないと思うので、「こういうことが可能なんだ!」と驚きました。

GOOD NEWS NEIGHBORSの森からのぞく、工場の一角。細長い建物の内部はいくつもの部屋に区切られ、各エリアで材料の保管、製菓、包装、発送などを行っている

GOOD NEWS FACTORYでは、社員やパート、障害のある人々がみんな同じ作業服で働いている。真っ白な服でマスクをしている姿では、その区別がパッと見た目ではつけられない、と小宅さんは言う。

小宅 就労支援施設の側面を知らずに、一般のお菓子メーカーだと思って社員やパートとして応募してくださる方も多いんです。障害のある方もいる、とお話しすると不安になる方もいたので、それまで就労支援事業として行なっていた「体験制度」を、一般の方にもやってもらうことにしました。実際の雇用の前に、数日間いろいろな仕事を体験してもらい、お互いに納得した上で配属を決める仕組みです。先ほどお伝えした、「体験を経て本人たちが向いている場所を一緒に探す」というのは、一般の方にも、障害のある方にも同じように行っています。

さらに、みんなで一緒に働く環境を実現させるために、小宅さんが意識しているのが「個人の状況や事情」に応じた勤務シフト。例えば、精神疾患のある方で季節の変わり目に鬱の傾向が強くなってしまう場合や、先天性股関節脱臼のある方が、寒い季節に関節痛により出勤が難しくなる場合などにも、柔軟に対応できるよう作業工程に余裕を持たせている。

小宅 出勤する人が少ないときには出来る範囲内で製造し、人が多いときには多めに生産して在庫を増やしておくんです。そうすることで、少ない日数から始めてみたり、通常の就労時間よりも遅く出勤したり、長めにお休みを取ったりすることもできるようになっています。

この対応も、障害のある人に限ったことではない。妊娠や出産などライフスタイルの変化に応じても、働き方や担当箇所の調整をしている。子育て中でなかなかフルタイムで働けない人なら、子どものお迎えに間に合うような短時間で働けるよう調整を行なう。

小宅 みなさんが働ける時間に来てもらって、休みたいときは休んでください、とお話ししています。実際にかなり自由で、「午前中に学校の授業参観があるので、午後から数時間だけ働きます」みたいなパターンもOKです。子どもの行事の時期はだいたいみんな一緒なのでみんながお休み。逆に用事がないときは大勢来てくれます。今、200人ほどの方々が登録してくださっていますが、平均的に出社しているのは半分ぐらいですね。

工場の一室の様子。この機械は、お菓子に使うジャムなどを作るためのもの

小宅 できるだけ長くうちで働いてもらいたいので、本人と面談して、どんな働き方をしたいかを確認することを大切にしています。工場にはいろいろな工程があり、バリバリ働きたいときには適した場所がある一方、座って仕事ができる部分も用意していて、立ち仕事がつらい妊娠中や怪我をしている方などに担当してもらうこともあります。

障害のある方向けに取り組んでいたことを、立場の有無に関わらず範囲を広げたことで、「全員が働きやすい」職場になっているGOOD NEWS FACTORY。結果的に、障害のある人とない人が支え合える場所を実現している。

小宅 どんな人のためにも調整できるようにしていくことが、みんなが心地よくいられる環境を作るのかなと思います。最初は障害のある方だけにやっていたことだけど、みんな一緒ですからね、働くのは。

GOOD NEWS FACTORYから、未来の選択肢を

工場でのさまざまな工夫の話に、じっと耳を傾けていた金森さん。決して楽ではないはずのシフト管理や担当箇所の采配などに驚きながら、小宅さん自身の原点にも触れていった。

金森 今の形になるまで、配慮を一つひとつ積み上げるのってすごく大変だったと思うんです。改めてお話を聞きながら、どうして小宅さんがそこまでできたのかを知りたいなって思いました。

小宅 直接のきっかけは、〈GOOD NEWS〉代表の宮本吾一から「福祉施設を作りたくて、医療関係者を探していた」と話をもらったことです。2018年の夏ごろ、ちょうど「バターのいとこ」のレシピができたタイミングで、立ち上げから一緒にやってみないかと言ってもらいました。

そう話す小宅さんは、もともとは千葉県で看護師として10年間、小児科やICUで働いていた。結婚を機に栃木県の大田原市に移住。生まれたお子さん2人に自閉スペクトラム症(ASD)があったことから、大田原や那須地域周辺の就労支援施設を探してみるも、近隣にはなかったという。

小宅 宮本から声をかけられた頃、ちょうど「この子たちは大きくなったらどこで働くんだろう」と考えていたんです。調べてみると、うちの子どもたちの特性に合いそうなところは、一番近くて宇都宮まで出なければいけなかったんですね。1時間〜1時間半くらいかけて親が送り迎えするか、もしくは通勤が大変で引っ越しまでしている人も多いと聞きました。

いずれ私はいなくなっちゃうし、サポートしてもらいながらも本人がちゃんと自立できたほうがいいなと。そのためにも、この地域に就労施設があれば、という思いを抱いてる時期でした。

最初は、宮本さんが運営する別の複合施設「Chus(チャウス)」の一角で、小宅さん自身が「バターのいとこ」を作るところから始まった。生地を焼いてジャムを作り、一つひとつ手で挟んで梱包するところまでやって、何とか1日50箱。全工程を担ってきた小宅さんだからこそ、その後工程を一つひとつ細分化し、それぞれの人に合った役割を配分できたのだろう。

同時に就労支援施設を立ち上げるための準備を進めていき、4人のスタッフ、2人の利用者で就労支援施設としてスタートしたのは、2019年のはじめのことだ。

小宅 その時は「10人くらいの小さな工房ができればいいな」という気持ちだったので、こんな大きな工場になるとは思ってもいなかったです。うちの子はまだ小学生ですし、いずれここに入社してもらって……とは別に思っていません(笑)。ただ、大きくなったときにも〈GOOD NEWS〉の就労支援事業が続いていて、私たちの他にも就労支援施設ができていたら、働く場所の選択肢が増えますよね。そうなればいいな、という思いでやっています。

工場内には、テラスつきの休憩室も設置され、具合が悪くなったときなどいつでも休めるようになっている。奥に見えるのはGOOD NEWS NEIGHBORS

那須町の就労継続支援A型事業所は、現在でもGOOD NEWS FACTORYのみ。小宅さんは話のなかで、2013年のアメリカ精神医学会のガイドライン変更などを発端に、発達障害に関する診断が増えていることにも触れた。認知が広がり、支援の手が以前よりも行き届くようになったことは良いことだとしつつも、「診断された子どもたちの受け皿になる施設がまだまだ不足している」と話す。

小宅 数自体も足りていないし、制度的に障害のある人が働きにくい環境があることも事実です。例えば、障害のある人はダブルワークが禁止されていること。

この地域では、人手が必要な夏場に農家で働いている障害のある方も多いのですが、冬にはお仕事がなくなってしまう現状があります。以前、冬の数ヶ月だけでもうちで働けたら……と来て下さった方がいたとき、就労支援制度の利用許可が下りなくて。その方が「改めて自分は障害者だって思わなきゃいけないですね」って言ったのが、すごく悔しかったのを覚えています。そんなふうに思わずに生きられる方法があるといいなって。

健常者がOKで障害のある人はダメっていう状況を変えて、いろいろな人が平等に働くことができたらいいなと思っています。

個を認めつつ、一緒に過ごすことで社会を変える

同じ場所で働く機会を、障害がある人にもない人にも平等につくる。小宅さんの想いは、「誰もが鑑賞を楽しめるように」と挑んできた金森さんの実践にも、根底で通じるところがある。

以前、作家の川内有緒さんとの対談でも「個々の置かれた状況も実際はさまざまで、多様な人がいる場を成立させることは簡単ではないとわかった」と打ち明けた金森さん。ずっと感じている葛藤を、上映会というリアルな場づくりを経て改めて小宅さんにも伝えた。

金森 私たちが“知らない”という無意識のなかで、言ってしまったり決めてしまったりすることが、マイノリティの方にとって思わぬ障害を生んでいる可能性があると思うんです。運営者側は「マジョリティの視点がどんな障害を生むか」と学んだり調べたりもするけれど、多くのお客さんはそこまで意識しないでいらっしゃいますし。

そもそも「みんなで楽しめる場を作りましょう」と言われても、多様な方々と一緒に過ごすための知識や共に過ごした経験がないと、なかなか行動に移せないのではないか、と感じています。

金森 今回のフレンドリー上映会は、運営側の意図を汲んでくださったマインドの方々が多く来てくださっていたと感じました。ですが、もしそこに「大声をあげたり走り回ったりして大丈夫な上映会なんだ」ということを受け入れられないお客さんが一人いるだけで、その場が成立しなくなってしまう。

だからこそ、多様な人たちが同じ場で過ごすときに求められる振る舞いを、普段の生活のなかで「知る」機会がもっとあればと思うんです。学校などの教育現場でも交わることがまだまだ少なくて、時間のかかることだと思うんですけど、私たちの活動を通して少しでも接点を作ったり、自分と違う状態で暮らしている方々のことを知ったりしてもらえたら嬉しいです。

近しい環境にある人、似た属性のある人とだけ過ごす世界では、自分と違う立場の人が「どうしたら嬉しいのか」「どうしたら悲しいのか」さえ知る由もない。

映画に手話がついて、初めてストーリーに感情移入できる人がいること。動いたり喋ったりしながら、映画を楽しみたい人がいること。視覚障害のある人のなかにも、詳しい音声ガイドが欲しい人と欲しくない人がいること。それらはすべて、「一緒に映画を観よう」と思って初めて気がつくことができる。

「共に過ごす」経験から人の意識を変えていく実践は、働く場であるGOOD NEWS FACTORYでも同じだ。小宅さんもあえて特別な説明はせずに、まずは「一緒に働くこと」でお互いを知ってもらうようにしている。

小宅 私が工場のみなさんにお願いしてるのが「お互いを思いやり、相手に対して尊敬する気持ちを持ちながら、平等に接してほしい」ということなんですね。もちろん特性への配慮はしますし、施設として定められた研修は行っていますが、普段はあえて障害のある・なしを意識的に分けることもしていなくて。普通にお仕事に来て、普通に接してくださいっていうお話ししか、私はしていないんです。

そう語る背景には、“障害”に対して特別な捉え方をしていない小宅さん自身のまなざしがある。自閉スペクトラム症のあるお子さんに対しても、「一つの個性だよ」と伝えてきたという。

小宅 うちの子が5歳ぐらいの時に「なんで僕はいつも病院に行かなきゃいけないの? 病気なの?」って言われたんです。その時に「診断はついたけど、ママは病気って思ってない。例えば車を真っ直ぐにいっぱい並べちゃうとか、そういう特徴があなたにあるのも、個性の表れだと思ってるからね」って伝えて。

それは工場のみんなも同じで、障害をあんまり特別なことだと思わずにいてくれる方がいいなと思っているんです。相手や自分を「障害だ」と思うことが、気持ちを隔ててしまうこともあるから。個性豊かな人の集まりだと思ってほしい、と伝えています。

金森 いいですね、個性の集まり。

小宅 うちのお菓子は一つひとつ手作りで最後の仕上げをしていて、それこそお菓子にもすごく個性があるんですよね。個性的な人たちが、個性的なお菓子を作っている会社です。

金森 本来、ものって一個ずつ違って当たり前ですもんね。その背景も含めて、お客さんに楽しんでもらえるといいなと思いました。

小宅 このGOOD NEWS NEIGHBORSが、そういうところを楽しめる、伝えられる場所になっていきたいですね。商品そのものの認知に比べて、ここがサステナビリティをテーマにした場であることや、GOOD NEWS FACTORYが就労支援施設であることもまだまだ知られていないので。今回の映画祭のような機会を通じて、福祉事業をやっていることがまず広まっていくといいなと思っています。

二人の対話を聞きながら、フレンドリー上映会のなかのある場面が思い返された。少し暗くなる映像を見た小さい子どもが「こわい」と親に伝え、ライトが明るく照らすお店のほうに抱っこされて行ったのだ。

「たくさんの人に見てもらえるように」と作られたアニメーションでも、静かなシーンをわくわくすると感じる人もいれば、怖いと感じる人もいる。多様な感情の先で、見続ける、一度離れるなど、それぞれの心地よさを選べればいい。スクリーンと広場、店舗が共存するその空間には、まさに「個人の状況や事情」に合わせた多くの選択肢があった。「みんなが心地よい」──個性を認めて一緒に過ごすことができる、それが「インクルーシブな場」なのかもしれない。

すべての人に合わせ、最適な環境を作るのはなかなか難しい。けれど、少なくともすべての人の個性を認める環境を、金森さんも小宅さんも作ろうとしてきた。その実践の先々に、みんなが互いを知り、受け入れ、生かし合える場も生まれていくのだろう。


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