福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】対話の森のプログラム中の様子。複数の手で円が作られている【写真】対話の森のプログラム中の様子。複数の手で円が作られている

福祉をたずねて1年。編集部は何に出会い、悩んできた?——〈こここ〉振り返り座談会 こここインタビュー vol.08

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2021年に創刊した、福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉。「個と個で一緒にできること」を合言葉に、さまざまな福祉施設、専門家、福祉にまつわるアイテム、活動などをたずね始めておよそ1年(メディアが世に公開されてからは8カ月)が経とうとしています。

今も日々夢中で企画に向き合うなか、公開した記事数は早くも150以上に。そこで「印象深かった取材や企画を一度振り返ってみようか」と、年の瀬が迫る2021年12月某日、座談会を行うことにしました。

「福祉」をたずねるなかで、どんなことが見えてきたか。メディアとして何を大事にしたらいいのか。〈こここ〉編集部内で飛び交う日々の悩みや揺らぎを、そのままお見せできればと思います。

※ 参加したのは、記事企画に携わる以下の6名。会の進行、および本記事の構成・執筆を、年度途中から編集部に加わった佐々木が務めました。

座談会参加メンバー

中田一会 : 編集長。〈こここ〉の名付け親。寄稿連載を中心に記事編集も担当しつつ、こここ全体の方針などを決める役割。創刊前は心配ばかりで眠れなかったらしい。

及川卓也 : 統括プロデューサー。雑誌『anan』の編集を20年務め、2012年にウェブマガジン〈コロカル〉を創刊。〈こここ〉の仕掛け人であり言い出しっぺ。

垣花つや子 : 編集者。寄稿連載とインタビューやスタディ、レポート記事などの企画編集を担当。「くよくよ悩み続けるのが得意です」と言えるようになりました。

岩中可南子 : 編集者。こここなイッピンとニュース担当。気づけば身の回りのものが福祉発プロダクトづくし。いつかイッピンを集めた本を出したいと企んでいる。

ちばひなこ : SNS担当、ライター。制作陣が大事にしているものを感じることを楽しみに、毎日映画をみて過ごす。趣味で映画祭の運営も行う。福祉領域に〈こここ〉を通して近づいたひとり。

佐々木将史 : 編集者。2021年9月より編集部に参画し、インタビューやスタディ、ニュース記事などを担当。関西(滋賀)在住のため、滅多にメンバーに会えないのがさみしい。

【画像】こここ編集部の集合写真
2021年、初めて取材をしたときの1枚。左から垣花つや子、岩中可南子、中田一会、ちばひなこ、及川卓也。当時、佐々木は外部ライターとして参画しており不在。(撮影:加藤甫)

〈こここ〉の出会い方を振り返って

佐々木

印象深い取材や企画……というお題を出しておきながらですが、正直難しいテーマだなと思いました。みんな一つひとつ、すごく大事に記事をつくってきましたし。

中田

手前味噌ですけど、率直に、どれもいい記事だったなと思っていて。ぜんぶ読んでほしい気持ちもあるし、選ぶのは本当に難しい!

佐々木

まず頭に浮かんだのは、福祉施設の「現場」を訪れるという意味での〈ラマノ〉さんの記事です。この『アトリエにおじゃまします』は、コロナ禍で取材が難しかったシリーズですが、やっぱり〈こここ〉にとって大切な企画なのかなって。

多くの人の手を介して生まれる「鯉のぼり」の工房へ。〈クラフト工房 LaMano〉訪問記 | アトリエにおじゃまします vol.1

【写真】クラフト工房ラマノで愛染をした布を干している人
(撮影:加藤甫)
岩中

私は〈ラマノ〉さんに別の仕事で伺ったこともあったんですが、改めて取材に同行させてもらって、施設長の高野さんのお話がすごく心に残りました。障害のあるなしではなく、メンバーさんのことを「一緒にモノづくりをしていく仲間」と捉えていたり、人の得意不得意をうまく掛け合わせる姿勢を持っていたり。

この取材で、それまでオンラインで何度も打ち合わせしていた編集部チームが初めてリアルで集まったんですよね。みんなで現場を訪問できて、すごくよかった。

中田

チームの意識合わせという意味も含めて、現場には何度かみんなでたずねていきましたよね。福祉の専門家でない私たちにとって、訪問取材は問いや知恵に「出会う」ための、すごく大切な機会になっていたかも。

ちば

施設や人と自分たちがどう出会っていくかは、編集部でもよく話題になりますよね。私は、伊藤亜紗さんの取材が印象的でした。みんなでお話を聞きに行って、しかも冒頭に「LINKAGE」のゲームをやるところから始まって。

さまざまな側面をもつ「わたし」と「あなた」をそのまま大切にするには? 美学者 伊藤亜紗さんを訪ねて | こここスタディ vol.01

【写真】微笑んでこちらを見るいとうあささん
(撮影:川島彩水)
垣花

テーマそのものが「それぞれの多様な側面をどうすれば大切にできるのか」だったので、「取材する人/される人」という関係での出会い方をすこしでもやわらげたかったんですよね。ゲームを一緒にやりたいと依頼時にお伝えしたら、伊藤さんは「おもしろそうですね」とお返事してくださって。めちゃくちゃうれしかったです。

ただ、そうした出会い方を意識できれば、それでOKというわけではなくて。「1時間や2時間の取材で相手のすべてがわかるわけじゃない」ということは、絶対忘れちゃいけないなと思ってるんです。

中田

短時間でわかったつもりにならないために、可能な限り長く滞在させてもらうし、出会い方にも工夫する。あえて編集部みんなでたずねる。

私はこれまでの仕事で、時間的・人数的にコンパクトな取材が「相手に負担をかけなくていい」と思っていたところがあったから、垣花さんが取材方法からいろんな提案や調整をしてくれるのが、実はすごく新鮮でした。そんなやり方があるんだなって。

垣花

もちろん、大人数で行くことが適していない場所や、そういった状況が苦手な人もいるかもしれない。何が負担になってしまうのかも含めて取材相手と相談しながら、「どう出会えるのがいいのか」を模索し続けたいと思ってます。

迷いながら「倫理」と向き合い続ける

垣花

現場で同じものを見ていても、受け取ったものって全員違いますよね。その違いについて帰り道や会議で話せることは、取材させてもらう相手の多面性に立ち止まるきっかけにもなるのかなと。

それを実感したのが、ダイアログ・ミュージアム「対話の森」の取材だったなと思います。

中田

あの記事、私もとても印象に残って何回も読みました。ちょっと長いんですけど、取材者の経験や思考を追体験できるようなつくりになっていますよね。異なる特性のある方との「対話」を、エンターテインメントとして体験できたことも、それを持ち帰って何度も反問していった記事の流れもよかったと思います。

頭のなかだけのダイバーシティから離れて。ダイアログ・ミュージアム「対話の森」体験レポート | こここレポート vol.02

【写真】対話の森のプログラム中の様子。影絵をしている複数の手
(撮影:加藤甫)
垣花

でも、担当編集として反省もあるんです。途中の暗闇のイメージを、真っ黒だけの画像で何回も表現してしまったのが、少しステレオタイプ的だったかもと思っていて。

中田

たしかに。暗闇での体験だといっても、その捉え方はそれぞれですね。

垣花

あくまで私の視点におけるイメージではあったのですが、たとえば「取材チームが体験した状況としては、こうだった」という画像キャプションをつけるなど、もっと考慮できたなと。イメージ挿入の提案は私がしたのですが、どうするのが最善だったか、今も悩んでいます。

佐々木

〈こここ〉の編集方針「コンパス」にある、「倫理」を大事にする部分ですよね。そこがすごく難しくて、いつも迷いや反省がありました。自分自身に無自覚な偏見があることも、記事をつくりながら何度も突き付けられたと感じています。

中田

「倫理」の難しさと重要さを象徴しているのが、出口真紀子さんの「マジョリティの特権」にまつわる講演をまとめた記事だったと思います。実はこれが現在、〈こここ〉で最も多く読まれてるんですよね。多くの人が目を向けようとしているテーマであることが、はっきりと表れたように私は感じてました。

差別や人権の問題を「個人の心の持ち方」に負わせすぎなのかもしれない。 「マジョリティの特権を可視化する」イベントレポート | こここスタディ vol.02

【イラスト】自動ドアのセンサーが感知せず立ち止まる人と気にせず歩いていける人
(イラスト:あさののい)
垣花

〈こここ〉は「個と個で一緒にできること」が合言葉です。でも、それを模索するときに、社会の構造によって誰かの権利が阻害されているかもしれない、相手が生きづらさを背負っているかもしれない……という視点は、本当にいつも意識しないとなと思いました。

こういう仕事をさせてもらっていることも含めて、自分も特権は多く持っていて。それを自覚しながら、今まで「難しい問題だな」と済ませてしまっていた事実にどう向き合い、行動に移していけるかが大事だと思っています。

中田

今の時代、どうしても「わかりやすいもの」が好まれる傾向があると思うんです。わからないことを、クリアに誰かに言い切ってほしい気持ちは自分にもある。でも、それじゃいけないと思っていて。

この記事を頭の片隅に常に置きながら、断定的な言葉づかいや、煽るような強いタイトルづけをなるべく避けるように私は意識していました。

岩中

誰かを糾弾する言葉だけでなく、「誰もが幸せになる」のような、一見ポジティブだけど強い言葉も使わないようにしてきましたよね。この言葉を使うことで誰かを傷つけてしまわないか、言い切ってしまってもいいのか……常に迷いながら記事を作ってきたり、話し合いを続けてきたりした姿勢は、一つ〈こここ〉らしさにはなってきたように感じています。

COJI-COJI さくらももこ(著) | こここ文庫

【画像】COJI-COJIの表紙 さくらももこ作
©︎MOMOKO SAKURA
中田

迷いはずっとあるけど、それが〈こここ〉なのかなと私も思います。自分にとって思い出深い記事の一つに、創刊時に掲載した『こここ文庫』の「COJI-COJI」の記事があって。これは編集者の多田智美さんが、メディアの立ち上げに悩んでいる私の姿を見て、エールとして書いてくれたところがあるんです。

コジコジのように、「当たり前」を気にせずに領域を横断するからこそ、見えてくる新しい「出会い」がやっぱりある。倫理を持ちながらも、わからない物ごとに対して素直にたずねて行ける姿勢は、これからも持ち続けたいなと思いますね。

触れるきっかけとしての「創作」「表現」の力

佐々木

「出会い」という意味で、僕がもう一つ聞きたかったのは読者と福祉の出会いです。新しい出会いになったかな……と思う企画だと、何を思い浮かべますか?

垣花

私は『こここなイッピン』のシリーズだと思います。福祉施設から生まれたアイテムと出会う。それも福祉に関係あるとは知らなくて、「おもしろいな」「何となく好きだな」と思えるものが入り口になるのは、すごく可能性があるなって。

中田

〈工房まる〉さんのピーナッツくんの記事、印象深かったです。かわいらしさはもちろん、それが20年で1万個以上生み出されてる現場があると知れることも、すごくおもしろい体験だなと思っていて。

ピーナッツくん〈工房まる〉 | こここなイッピン

【写真】たくさんのピーナッツくんが並んでいるところ
(撮影:高倉夢)
岩中

モノ自体と、その背景にあることの行き来を通して、さらにそのモノが愛しくなってくる。そんなおもしろさを、『こここなイッピン』で取材をしていると感じます。つくり手さんと職員さんとの間のやり取りにも創造性があって、工夫やアイデアが詰まってるのがすごくいいなと。

中田

イッピンの裏側に協働があるのがおもしろいですよね。「利用者」「スタッフ」という関係を超えて、一緒に楽しみながら、生まれた表現をどう届けようか考えていく。

佐々木

〈こここ〉は「福祉をたずねる」メディアだけど、同時に「クリエイティブマガジン」でもある。表現やその寄り添い方にも、いろんな出会いがありましたね。

岩中

モノづくりは見た目にわかりやすいところがあるけれど、モノにする以外の表現もたくさんあって。私が個人的に印象深かったのは、最近始まったアサダワタルさんの連載エッセイです。

「これもこの人の表現かもしれない」「コミュニケーションの手段かもしれない」と、見たものをもう一度捉え直していく言葉のなかに、私はクリエイティブってなんだろうとすごく考えさせられました。

指で覆われる景色 | 砕け散った瓦礫の中の一瞬の星座 -ケアと表現のメモランダム- vol.01

【画像】カメラのレンズを指で覆っているきよしさんのイラスト
(イラスト:くぼやままさこ(HUNKA))
中田

表現って何なのか、なぜ人間にとって表現が必要なのか、という大きなテーマに向き合うエッセイでもありますよね。「福祉」と「クリエイティブ」をともに掲げることの意味を問いかけてくれる、本当に大切な企画になっているなと思います。

読者との出会いを広げるためにできそうなこと

佐々木

〈こここ〉にとってクリエイティブを扱う意味ってなんだろう、というのはずっと抱えているテーマですよね。入り口としての可能性と、それゆえの難しさもある。統括プロデューサーの及川さんは、ここまでの話をどう感じていますか?

及川

まず改めて、〈こここ〉はこの1年、深度のある記事をつくってきたように思っています。わからなさ、わかりにくさも含めたアプローチをみなさん意識してきたのかなと。

クリエイティブを扱っていくことは、そうした記事と「新しい読者」との出会いをつくるうえで大切だと思っています。福祉的実践への入り口をつくるというか。その意味で言うと、個人的に印象に残っているのは、〈日本デザイン振興会〉の連載『デザインのまなざし』ですね。

「福祉とデザインが交わるところをたずねる」という入り方もいいし、「グッドデザイン賞受賞プロジェクト」という枠の中で「福祉」を探していく立て付けなので、実践性もある。おもしろい企画じゃないかなと感じていました。

お寺は何をするところ? 子どもの貧困問題を前にして「仕組みのデザイン」を僧侶が手掛けた理由。おてらおやつクラブ・松島靖朗さん | デザインのまなざし vol.01

【画像】お寺のなかに立つ松島靖朗さん
(撮影:進士三紗)
及川

もう一つ、入り口をつくるうえで大事だなと感じていたのは『こここニュース』ですね。週に何本か、世の中で起きている福祉やクリエイティブに関わる事象を広く紹介していく。

気になるキーワードや固有名詞を交えながら、背景を丁寧に伝えていくことは、新しい読者とつながるための大切なアプローチかなと考えています。

身の回りにある「なんでやねん」を面白く捉え直す。2月14日まで「第二回なんでそんなん大賞」募集中 | こここニュース

【画像】なんでそんなん大賞募集
(提供:なんでそんなんプロジェクト)
ちば

SNSでのシェアを見ているなかでも、「気になる」「行ってみようかな」などとたずねるきっかけにしたり、自分ごとに置き換えたりしてもらったようなコメントをよく見ます。

岩中

ニュースは、いわゆる福祉領域に直接関わりがなくても、視点としてつながるものを取り上げるようにしてる点も、特徴ですね。たとえば先日の〈せんだいメディアテーク〉さんの展示は、一人ひとりの「語り」のなかに「個と個で一緒にできること」があるという意味で、通じるものがあると感じてご紹介しました。

“もの語り”をテーマにした展覧会、「ナラティブの修復」が〈せんだいメディアテーク〉で1月9日まで開催中 | こここニュース

【画像】野原に、何も書かれていない看板が立てられている。看板の上方に展覧会のタイトル。
(提供:せんだいメディアテーク)
中田

きっかけとなり得るものが、実はたくさんあるんですよね。私もニュースは「つながりを生むための大事なコーナーです」とあちこちで話しています。

同じように紹介しているのが、『こここインデックス』。この領域の輪郭が量として見えるよう、当初から機能として必要だと考えていました。福祉を遠いと感じる人に、「こういう人が活躍していて、こんな施設や場所があるんだ!」と興味を持ってもらいたかったんですよね。

こここインデックス

 〈こここ〉でお話を伺った人、連載の書き手、たずねた場所や活動などをご紹介します。

中田

一方で、これはあくまで「索引」であって、それ以上の意味を持たせてもいけないなとも考えているんです。私たちがラインナップを選り分けて「これが今の福祉とクリエイティブの先端プレイヤーだ!」と強調するのは違うと思うし、一方であたかも自分たちのネットワークのように囲い込むのも違う。そこは注意して機能をつくっていきたいと思っていて。

垣花

うっかりすると〈こここ〉がセレクションした「カタログ」に見えてしまいそうだけど、どちらかというと「図書館」を目指したいですよね。どうすればそうなっていくのかは、引き続き考えないと……ですが。

中田

そう。公共性を持たせたいというのが意図なんです。私たちが出会った人やチームの情報に、誰でもアクセスできるようにしておくので、興味がある人はぜひ自分でたずねていただけたらうれしい。

2022年、まだまだ〈こここ〉はたずねて行きます

佐々木

〈こここ〉の創刊から8カ月が経って、インタビューなどで登場いただく方はもちろん、継続的に関わってくださる方も増えてきましたね。齋藤陽道さんの連載『働くろう者を訪ねて』はすでに12本の記事が公開されて、SNSでも毎回たくさんの反応をいただいてます。

中田

このシリーズは、企画や取材を齋藤さんチームに基本的にお任せしているのですが、予想外の出会いが本当にたくさんありました。編集担当の私としては、当初どうなるかまったく予測がつかないまま始めたんです。

でも、蓋を開けたらすごく多様な職業や考え方に出会えて。登場いただく方々にたくさんのことを教えてもらっています。

垣花

「職業図鑑」としてすごくおもしろいですよね。自分が知らない仕事内容も垣間見えるので、毎回楽しみにしています。

今村彩子さん【映画監督】 | 働くろう者を訪ねて vol.12

【画像】ビデオカメラをもち、木の下に立ついまむらあやこさん
(撮影:齋藤陽道)
佐々木

今あるつながりを大事にしながら、一方で来年に向けてもまったく新しい企画がたくさん動いています。最後に、実は「こんな場所をたずねたいな」と思っていることがあればお聞きしたいです。

岩中

たずねられていない福祉施設がまだまだ全国にたくさんあるので、もっとたずねていきたいです。と同時に、施設だけでなく、広い意味で「福祉」(人の幸福を支えること)と捉えられそうな活動にも、もっと出会いたいなと思っていて。

今は制度に含まれていなかったり、まだ仕組みとして確立していなかったりするもののなかにも、「個と個で一緒にできること」につながる取り組みがたくさんある気がしています。

ちば

今日のみんなの話を聞いていて、クリエイティブな実践をされている方々が大事にしている「倫理」についても、もっとお伺いしてみたいなと思いました。自分のなかにあるものを、表現として世の中に伝えていくとき、その過程にはたくさんの決断や悩みがあると思うんです。

特に福祉の現場において、創造性のなかに潜んでいる「倫理」をたずねていくことには、〈こここ〉が目指す世界に近づくためのヒントがあるのかなと感じていました。

中田

善悪や生き方を立ち止まって考えようという「倫理」は、まさに今、社会全体に必要なもので、私たち一人ひとりが更新しないといけないもの。そこをしっかり意識しながら、多くの人に「関わりたい」「知りたい」「楽しい」と思ってもらえるチャーミングさも追い求めたい。やりがいもあるけど、難しいところですね。でも今日の話で、〈こここ〉をつくるメンバーが一人ひとりがその意識を大事にして活動できているなと確認できて、編集長としては心強く感じました。

来年も、引き続き「個と個で一緒にできること」を合言葉に、さまざまな実践をたずねていきましょう。どんな人や活動に出会えるかな。

記事では紹介できなかった取材写真

【写真】絵筆を手に色を塗っている様子
〈クラフト工房 LaMano〉のレポート記事では鯉のぼりを中心とした染織の手仕事を紹介しましたが、絵画や刺繍などのメンバーさんによる創作活動も魅力的。(撮影:加藤甫)
【写真】対話の森でのプログラムのワンシーン。複数人の手が中心にあつまり円をつくっている
視覚障害のあるアテンドとともに暗闇を探検する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と、聴覚障害のあるアテンドとともに音声言語を使わない対話を楽しむ「ダイアログ・イン・サイレンス」のふたつのプログラムを体験した、ダイアログ・ミュージアム「対話の森」の取材。(撮影:加藤甫)
【写真】ロッカーの上によじのぼる子どもと、それを見つめる子ども
岡山県倉敷市にある放課後等デイサービス〈ホハル〉の取材では、丸一日、子ども達と一緒の時間を過ごさせてもらいました。(撮影:川瀬一絵)
【写真】トレイの上にメイン、パン、サラダの皿、スープが乗っている
「なんでそんなんプロジェクト」の取材で訪れた、生活介護事業所〈ぬか つくるとこ〉のランチ。近隣のレストランと連携した美味しい食事をメンバーもスタッフも一緒にいただく。本当に美味しかった!(撮影:川瀬一絵)
【写真】何人かが踊っているときの足元
連載打合せと取材を兼ねて訪れた、認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〈たけし文化センター〉のイベント「クラブアルス」では、取材チームも楽しく踊りました。(撮影:鈴木竜一朗)
【写真】空に浮かぶ、ある人の手。手が空を散歩しているようにも見える
インタープリターとして活躍する和田夏実さんのインタビューは、発話に限定しないコミュニケーションの形を模索。リアルタイムでグラフィックレコーディングもしながら実施しました。(撮影:川島彩水)

〈こここ〉2021年公開記事の制作に携わっていただいた方々

執筆 : 青木彬、秋本可愛、アサダワタル、五十嵐大、伊藤紺、遠藤ジョバンニ、大政愛、北川由依、齋藤陽道、白坂由里、新澤克憲、杉原環樹、孫大輔、多田慎介、多田智美、たばたはやと、長津結一郎、生湯葉シホ、西村佳哲、野口晃菜、ハーモニー新聞部、林貴代子、福井尚子、ムラキング、森田かずよ、盛山麻奈美、矢島進二
(ご寄稿者を含む)

撮影 : 加藤甫、川島彩水、川瀬一絵、進士三紗、鈴木竜一朗、高倉夢、ただ(ゆかい)

イラスト : あさののい、富樫悠紀子、くぼやままさこ(HUNKA)、しかとまいこ、ミカヅキユミ、水谷有里

グラフィックレコーディング関美穂子

アドプランニング : 栗城慶一(マガジンハウス)


Series

連載:こここインタビュー