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【画像】たくさんの狸の焼き物の中に立つ藤原康造さん【画像】たくさんの狸の焼き物の中に立つ藤原康造さん

藤原康造さん【信楽焼職人】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.18

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手話を大切なことばとして生きる「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第18回は滋賀県甲賀市で信楽焼職人として働く、藤原康造(ふじわらこうぞう)さんを訪ねました。

藤原康造さん【信楽焼職人】

【画像】たくさんの狸の焼き物の中に立つ藤原康造さん

―お名前、年齢、ご職業は?

はじめまして。ぼくの名前は藤原康造といいます。73歳。信楽焼(しがらきやき)でたぬきを作り続けています。お店の名前は「古狸庵(こりあん)」。

―出身地はどこですか。

ここ、信楽(しがらき)生まれ(※注)。

※注:滋賀県甲賀市信楽町江田本町

 

―今まで通っていた学校はどこですか。

中学3年生まで滋賀県立聾話学校に通っていました。入学が遅かったから卒業したときは16歳。そのあとは祖父の工房に入り、信楽焼の修行をしていました。興味はなかったんですが、祖父、父、兄に無理やり入れられたというわけです。本当は高校にも行きたかったんだけど、うちの工房の歴史を守れ、と言われました。日本語が苦手だったから他の仕事のイメージが無くて、まあいいか、仕方がないなと、職人になりました。

 

―こどものときの夢は何でしたか。

あったかな、ううん、信楽焼でたぬきを作るイメージしかなかったかも。

 

―これまでの職歴、経歴は?

ずっと信楽焼だけを作ってきました。まわりの影響もあったのか、幼いころからものづくりは好きでした。小学生のとき、シーサーのような置物を作って、窯に入れ、焼き上がりを楽しみにしていたら、無くなっていた! 祖父がどこかに売ってしまったんですよ。ショックだったけど、まあ、うん、仕方がないなあってね。
工房には厳しい兄弟子がたくさんいました。コミュニケーションはうまくできなかったけど、耐えました。身振りでなんとか。手を叩かれたこともあったね。まあ、昔はね。
兄からは「簡単で良いから早く作れ」、父からは「丁寧に作れ」と違うことを言われてね。困っていたこともあったんだよ。

―工房にはたぬきだらけですね。

面白い話があるよ、聞く? 一番初めに信楽焼のたぬきを作りはじめたのは誰だと思う?なんと、うちの祖父なんですよ。藤原銕造。ある日竹林に入ったら面白い表情をしたたぬきたちが踊っていたのを見たんだって。おどろきつつ工房にもどるも、たぬきたちの顔が忘れられず、たぬきの置物を作ったのが始まりらしい。
最初は二足歩行のたぬき。置いて安定しないので今の形になった。足ときんたま袋がどっしりと地に着いて、ばっちり安定。
昭和天皇陛下が信楽町へやってきたのがきっかけで、マスコミにも知られ、全国に「信楽焼たぬき」が広まった。
見ていて面白いし、縁起もいい。「他を抜く」という意味があり、商売繁盛のシンボルにもなる。人気が出てきたな、と思ったら他の信楽焼工房も真似してきて、今はどこでも売られているね。

―独立をするまで、どのような過程がありましたか?

実は兄との折り合いが悪く、もう離れたほうがいいなと思ったのがきっかけ。祖父が建てた「狸庵」の隣に工房を構えて、独立しました。でもあちこちには、ぼくが作ったたぬきがたくさんあります。「狸庵」にも残っている。外にある、とてもとてもおおきなたぬきもぼくが作りました。足元から組み立てて、1ヶ月かかったかな。

 

―他店では見ない、独特なポーズをしているたぬきもいますね。

この「I LOVE YOU」のサイン(※注2)をしているたぬきだね。何十年前だったかな。東京のお客さんから「I LOVE YOU」のサインをしている信楽焼たぬきを作ってくれっていうオーダーがあったのがきっかけ。最初はなんじゃこりゃと、はてなマークたくさんの頭で作っていたよ。意味を知ってから、世界に通用するのではと思いつき、今も作り続けています。外国からのお客さんにも人気があります。毎回説明しているから、説明ボードも作ったよ。

※注2「I LOVE YOU」のサイン:小指を立てて「I」、人差し指と親指で「L」の形を作り、他の指は曲げることで、「I LOVE YOU」を表すハンドサイン。アメリカ手話が元になっている。

―よくよく見ると同じ顔をしたたぬきはないですね。みんな違う。

そうだよ。型は石膏でできているんだ。同じ型でかたどっても、ひとつひとつ違う。これはやさしい顔になる。あれはキリッとした顔になる。ここにはこういう毛の動きを描こう。直感を信じ、工夫しています。同じものを2つ作るなんてつまらない。いつも新しいたぬきを作っています。
祖父のたぬきは怖い顔つきだけど、ぼくのたぬきはかわいい顔ばかりだよ。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

もうずっと、死ぬまでたぬきを作っていたい。いろんなたぬきを作りたいね。

―好きなたべものは何ですか?

寿司が好き。トロが一番だね。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

新しい注文を受けて、イメージがふくらみ、新しいたぬきを作れたときが幸せ。そしてお客さんにも喜んでもらえたことも。

 

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道