手話を大切なことばとして生きる「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。
連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。
最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。
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第34回は沖縄県恩納村でペストリーとして働く、島貫愛美(しまぬき・まなみ)さんを訪ねました。
島貫愛美さん【ペストリー】

ーお名前、ご職業、年齢は?
島貫愛美と申します。ペストリーをしています。ルネッサンスリゾートオキナワというホテルのキッチンでケーキ、菓子、グラススイーツなどをつくっています。
―出身地はどこですか。
宮城県です。2年前に沖縄へ引っ越して来ました。バツイチで息子がいます。息子は今、東京にいて「お互いに頑張ろうね」と応援し合っています。
―今まで通っていた学校はどこですか。
幼稚部から高校まで、宮城県立宮城ろう学校(※1)に通っていました。宮城障害者職業能力開発校に1年間通い、デザインの勉強をしていました。
※1 平成21年「宮城県立ろう学校」から「宮城県立聴覚支援学校」に改称
―こどものときの夢は何でしたか。
ブライダル関連でしたね。結婚式場で働いている人を見て、私もあんなふうに働いてみたいと憧れていました。
―これまでの職歴は?
群馬県で10年間、会社の総務課で働いていました。離婚して、息子を連れて宮城に戻り、さまざまな職種を経験して来ました。でも、どれも、まあ、なんとなくやってきて。いつもどこか「これじゃない」という気持ちがずっとありました。
こどものころからの夢を叶えたいと思い、結婚式場での事務職で働いていたら、東日本大震災に遭いました。2011年3月11日。多くの人が亡くなったり、家も壊されて、何もかもが消えてしまい……未来が全部無くなった、と絶望的になりました。そのあと、タルト専門店「キル フェ ボン」を知り、目の前が再び開けたんです。それで今の仕事をしています。
―ペストリーになったきっかけは?
料理は小さいころから好きでしたが、お菓子作りは苦手で、興味がありませんでした。40歳を過ぎて、タルト専門店「キル フェ ボン」ですばらしいタルトに出会いました。タルトそのものがアートなんです。花をイメージさせるデザイン。ピッカピカと美しくて、一目見て「これだ!」と自分の中の何かが噛み合いました。そのお店は老若男女問わず人気があり、いつも行列ができていました。
キッチンスタッフの募集に応募して、「キル フェ ボン」で働くことができたのですが、最初は皿洗いや清掃ばかりをしていました。厳しい指導の日々でした。
でも「確かに綺麗なキッチンじゃないと美しいタルトは作れないよね」と思って、皿洗いや清掃も楽しんでやり続けました。就職してから3年目で仕事が認められ、タルト調理を任せてもらえるようになりました。
言葉での指示はやっぱりわかりにくかったので、先輩の作業やタルトをよく見て、ひたすら真似をしていました。真剣に真似し続けていたら褒められるようになりました。
―パティシエとペストリーの違いは?
どちらもお菓子を作る人という意味があります。ホテルでは「ペストリー」(※2)を使います。
※2 「ペストリー」は英語、「パティシエ」はフランス語
―なぜ沖縄のホテルに?
きっかけは、「キル フェ ボン」に届けられてくる沖縄の果物でした。いろいろ珍しいのがあって、特にマンゴーにはびっくりしました。初めて食べたとき「沖縄ってすごいな。マンゴー以外にもパッションフルーツなどの珍しい食材もあって、海もある。 ああ、沖縄に行ってみたいな 」ってパッと思ったんです。沖縄の果物を見ていると、作ってみたいケーキのイメージが楽しく広がります。
―この仕事で心がけていることや工夫していることは?
ミスをしてしまったらすぐに謝ることです。すぐに、です。正直に、責任を持って、まっすぐ自分の言葉で伝えることです。そして同じミスをしないように精一杯頑張り続けること。隠すことはいいことが一つもありません。
― 5年後の自分は、どうなっていると思いますか?
カフェを開きたいですね。でも、もっと自由にケーキを作っていきたい気持ちが大きいかも。
沖縄には古くから伝わるお菓子がいろいろあります。それを食べてみたり、技法や材料を参考にするのが楽しい。まだまだ知らないことがたくさんあります。
―好きなたべものは何ですか?
アメリカンバーガーが好きです。一口では頬張れないぐらいのボリューム、あれがいいんですよね。
―最近幸せだと思ったことは何ですか?
ケーキを食べてくれたひとの笑顔を見ているだけで、幸せな気持ちになります。「おいしい、お腹いっぱい、ああ、満たされた」というときの笑顔が大好きです。
動画インタビュー(手話)
Information
・ルネッサンスリゾートオキナワのウェブサイトはこちら
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