福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】室内に立ち、赤い表紙の本を開いて正面を見ているまつざきじょうさん。向かって左手にはパソコンの置かれたデスクと椅子があり、右手はスチールラックの中に本や資料がならんでいる。松﨑さんはメガネ、黒いジャケットの下に黒いセーターと白いシャツ、青い色のパンツ、黒い革靴を身に着けている。【写真】室内に立ち、赤い表紙の本を開いて正面を見ているまつざきじょうさん。向かって左手にはパソコンの置かれたデスクと椅子があり、右手はスチールラックの中に本や資料がならんでいる。松﨑さんはメガネ、黒いジャケットの下に黒いセーターと白いシャツ、青い色のパンツ、黒い革靴を身に着けている。

伊藤ホサナさん【菓子職人】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.47

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手話を大切なことばとして生きる「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。

(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第47回は神奈川県横浜市で菓子職人として働く伊藤ホサナ(いとう・ほさな)さんを訪ねました。

伊藤ホサナさん【菓子職人】

【写真】えんじ色のワンピースの下に赤茶色の長袖、クリーム色のパンツを履いた伊藤ホサナさんが写真の何中に立ち、正面を向いている。店舗の前で、頭上にはお店のロゴが入った白いのれんがゆれている。ナホサさんの右肩の後ろには店舗のガラス窓があり、白い紙に黒い文字で販売しているお菓子の名前が書かれて張り出されている。

― お名前、ご職業、年齢は?

伊藤ホサナです。サインネームでは「ホ」の指文字であごを軽くなでる。「めめ菓子工房」代表です。ここでお菓子を作ったり、販売をしています。今年で37歳になります。

 

― 出身地はどこですか。

東京です。8年前に神奈川県横浜市へ越してきました。

 

― 今まで通っていた学校はどこですか。

1歳半のときにろうだということがわかり、東京都立品川ろう学校(※注1)の幼稚部に通いました。同時に保育園やトライアングル(※注2)、上智大学の言語聴覚教室などにつれていってもらっていました。インテグレーション教育 (※注3)で、小学校からは地元の学校に行っていました。

※注1:2005(平成 17)年閉校
※注2:一般財団法人トライアングル金山記念聴覚障害児教育財団のこと。聴覚障害児教育相談室、聴覚障害者本人・家族・教育専門家および市民ボランティアの交流会、聴覚障害についての勉強会などの事業を展開してる
※注3:障害のある児童もない児童も同じ学校に通う統合教育のこと。この場合は、ろう児が地域の普通学校に通うこと。

 

― こどものときの夢は何でしたか。

実はプロのダンサーを目指していたんですよ。

 

― これまでの職歴は?

ダンサーを目指していたころ、留学を考えていました。

親は応援してくれましたが「費用は自分で」と言われていたので、高校時代はいろいろなアルバイトを掛け持ちしていました。麻布十番のイタリアンレストランでのケーキ製造、ホテルの洗い場、パン屋での製造などです。1年で100万円を貯めました。

その後ロサンゼルスにダンス留学をしましたが、現地でプロの世界の厳しさを実感し、ダンサーの道は断念しました。

帰国後もさまざまな仕事を経験し、短大卒業後はスープ専門店に勤務しました。

ほかにも、NHK『みんなの手話』の司会アシスタントや、お菓子教室の講師も務めました。手話でお菓子作りを紹介する動画配信をきっかけに、Eテレの番組に出演したこともあります。

 

― 菓子職人になったきっかけは?

母がお菓子教室の講師をしていたこともあり、お菓子作りは身近なものでした。

私自身も自然と作るようになり、趣味として続けていました。

高校生のころは、プロの職人が手がける専門書を借りては、見よう見まねで手を動かしていました。作ったお菓子は自分なりにコーディネートして写真に残し、レシピにも少しずつ手を加えながらまとめていく。

そうして最終的には、一冊の本として製本したこともあります。表紙には手書きでケーキの絵を描きました。

大学生のころ、大手コーヒーチェーン店で働いていたときに、ふと「カフェをやりたい」と思ったこともありましたが、その気持ちはいつの間にか離れていきました。

24歳のころには世界一周をし、「お菓子」をテーマに各国を回りました。さまざまなお菓子や食材に触れる中で、日本人として自分の国のお菓子を学びたいと思うようになり、和菓子の勉強を始めました。

2020年、新型コロナウイルスの流行で人と会えない日々が続き、苦しい時期がありました。ろうの友人たちも同じように感じているのではないかと思う中で、「お店をやりたい」という気持ちが改めて出てきました。

そんなとき、友人から「りんご屋で働いてみない?」と声をかけてもらい、青森りんご専門店『いちりんご』で働くことになりました。

そこで趣味で作っていたお菓子を差し入れたところ、好評をいただきました。また、同じくらいの時期にマルシェ出店も友人のお誘いをきっかけに始めました。

経験を重ねる中でお客様も増え、周りの方々に背中を押してもらい、「めめ菓子工房」をオープンすることができました。

 

― 店名の由来を教えてください。

こどもからお年寄りまで、ずっと覚えてもらえるような名前にしたかったんです。

ろう者にとって、目を合わせることはコミュニケーションの基本です。

「目と目を合わせてのコミュニケーションを大事にする」という意味も込めて、「めめ」と名付けました。

準備を進め、2024年10月10日、「目の日」に開店しました。現在は2年目になります。

 

― お店を開くまでにどんな準備が必要でしたか?

開店までは、想像していた以上に時間がかかりました。事業計画書は日本語で作成する必要があり、悩みながら何度も書き直しました。

また、お店づくりで大切にしていることのひとつが世界観です。

お菓子自体のデザインは自分で考えていますが、それをより洗練させるために、信頼しているデザイナーに相談しています。同世代でCODA (※注4)でもあり、手話でやり取りできることも大きいです。何より、彼女の感性が好きで、「めめ菓子工房」の世界観を広げてくれる存在です。

※注4:コーダ Children of Deaf Adultsの略。きこえない、きこえにくい親をもつきこえるこども。

― 商品のアイデアはどうやって?

これまで世界各地でさまざまなお菓子や食材に触れてきました。店にこもるだけでなく、外に出て実際に食べることを大切にしています。

あまり考えすぎず、楽しみながら過ごす中で自然とアイデアが生まれることが多いです。これからも、「めめ菓子工房」ならではのお菓子を作り続けていきたいと思っています。

 

― 大切にしていることは?

この店では、ろう者を尊重することを大切にしています。

コミュニケーションの面で孤立しやすい現状がある中で、働く場としても広げていきたいと考えています。

また、できるだけろう者が生産した食材を使うようにしています。

もちろん味にもこだわり、納得できるものを選んでいます。京都のグループ「さんさんグリーン」(※注4)が手がける抹茶や、北海道のろう者が育てた小麦や小豆など、素材にも支えられています。

季節感も大切にしていて、その時期ならではの和菓子・洋菓子を用意しています。これからも一人ひとりに丁寧に向き合いながら、お菓子を手渡していきたいです。

※注5:医療法人みどり会が運営する就労支援事業所。ろう者を中心に、知的障害のある人や精神障害のある人が通所し農福連携事業に取り組んでいる。詳しくは公式サイトにて。

 

ーお店で大変なことは?

仕込みが一番大変です。すべて手作業で作っているため、大量には作れません。でも、その分、ひとつひとつの表情や味わいを大切にしています。

また、毎月変わる和菓子の内容を考え、材料の配分を決めていくのも欠かせない仕事です。和菓子と洋菓子では扱う材料も異なるため、それぞれに応じた準備と調整が必要になります。

手間はかかりますが、そうした積み重ねが店の味になると思っています。「めめ菓子工房」を目当てに来てくださるお客様に応えられるよう、これからも日々の仕事に向き合っていきたいです。

 

― 手話や指文字をモチーフにしたお菓子についてお聞かせください。

手話は特別なものではなく、私にとっては日常の言葉です。

だからこそ、「手話」や「ろう」を特別なものとして強調するのではなく、自然にお店の中に溶け込ませたいと考えています。

おいしいお菓子屋として成り立ったうえで、そこに手話が自然にある。そんなあり方を目指しています。

 

― 5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

42歳の私。

10年、20年先を見据えて、より通いやすい場所に展開しながら、ろうスタッフが手話で働ける場を増やしていけたらと思っています。

 

― 好きなたべものは何ですか?

最近は、ご飯ですね。宮城県に夫の祖父母がいて、お米を育てているんです。それを炊いて、いろいろのせて食べるのが好き。

あとは、フランス発祥のお菓子「ババ」が好きですね。お酒と生クリーム、シロップ漬けのパンの組み合わせが最高です。

 

― 最近幸せだと思ったことは何ですか?

仕事以外ですと、こどもたちと過ごす時間です。

子育てというより、むしろ自分が親として育てられていると感じることのほうが多いかもしれません。一緒に過ごして、話をする時間が楽しいですね。

自分がそうしてもらったように、こどもたちのやりたいことはこれからも応援していきたいと思っています。

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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連載:働くろう者を訪ねて|齋藤陽道